漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 あみーご×あみーが/瀬口たかひろ 】

 聴力障害(普通にしゃべることはできる)の女の子が、サッカー部への入部を希望してきます。
 でも、そこは、とんでもないサッカー部でした。
 部室にいる男子は1人。しかも美女を何人も侍らせてハーレム状態。
 しかも2巻のカラー口絵がこれもんじゃ、これ「サッカー漫画じゃねーだろーよ!」
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 博多の森高校サッカー部には、伝説の選手がいました。足のサイズはなんとたった23cm。そして、再びそのスパイクの履ける選手が入部したとき、博多の森高校サッカー部はまた最強のチームになる。
 そんな伝説を夢みて、自らはなにもしない先輩たちに嫌気がさした銀は、どうして自分達自ら練習をして強くなろうとしないのかと、先輩たちと全面衝突。オンナをはべらせてた主将と銀を除いて、その衝突を期に、みんな部を去っていたのです。そんな過去のあるサッカー部に、聴覚障害のある彼女、犬丸りるかは入部します。

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 純粋にサッカーが好き。みんなとサッカーがしたい!
 そんな気持ちに元部員たちも突き動かされ、また新入部員もはいって、博多の森高校サッカー部は、メキメキと実力をつけてゆく・・・というお話では、これもう瀬口先生の漫画じゃなくなっちゃいますね・・・と、瀬口先生がお考えになられたかどうかは存じませんが、なんですかこのギャグっぷり!

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 お色気ギャグ漫画やるんすか? サッカー漫画やるんすか? どっちなんですか??
 あ、帯付きの1巻の写真も載せときますね。

「萌え♥️×燃え!」の進化形サッカーコミック登場!! と書いてあります。要するにそういうことです。

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 でもさー、カバー絵と帯絵、ちゃんとリンクしてんのに、どうして文字がずれてるんでしょうね。こういう場合、帯にもカバー絵と同じデザインして、その上に煽り文句を重ねるんじゃないっすか? デザインさん、これ、ミスってますよね?

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 でも、なんだかんだ言いつつも、良い作品なんですよね。そこまで下ネタからませなくてもいいのにと思う場面は多々あるのですが、感動系でうるってきちゃいそうになる場面もこれまた少なくありません。
 多分、私が持ってるサッカーネタの唯一の漫画です。
 あと、あえて言うなら、「夕焼け番長」にサッカーシーンがあるくらいですかね。
 瀬口先生の作品じゃなかったら買ってなかったろうなあと思います。(全2巻)


(157-588)

【 霊能バトル/小山田いく 】

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 少年チャンピオン連載の小山田先生の作品、全3巻です。コメディーとオカルトの要素が強い作品。
 中2のタミー、親が転勤の多い職業のため、転校はせめて1回ですませてあげたいと、親戚の家に預けられ、そこから学校に通うことになります。
 その家には従姉妹で同級生のサイがいます。彼女は霊能力者として、中学生ながら既に依頼をこなしていました。そのサイの助手としてひっぱりまわされ、タミーはだいたいひどい目にあいます。

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 そもそもサイの霊能力が胡散臭いもので、「触れただけでフロッピーディスクのデータが消えた。私はだから超能力者」と名乗る少女(依頼主)は、実は磁気のあるバックルつきのベルトをしていて、そのせいでデータが消えた(霊能力にすら無関係)とか、地震でもないのに家が揺れるから霊障だと主張する依頼主の家に行ったら基礎がしっかりしてなかっただけだとか、科学的根拠のある事例が続くのです。

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 しかし、物語が進につれて、サイには霊能の師匠がいること、実際にお祓いなどする能力があること、初めて行う術が成功するなど、やはり霊能力者であることが徐々に示されていきます。

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 一話読み切りスタイルで、事案や事件を解決していくなかで、協力者や敵対者があらわれるのは、ある種のお約束的展開。
​ 活動を続けるうちに、サイにも仲間(?)ができてきます。まず、水晶占いのアンリ。仲間といっても出会いは最悪でした。二人にはテレビ出演の機会が与えられたのですが、もう最初からいがみあったような状態です。
 それから、事件絡みっぽいときに登場する三途の川刑事。サイのことは、心霊ごっこをして捜査活動をじゃまするヤツとでも思っているようです。
 トシというキザっぽい占い師は、僕の好きなキャラではないので、省略。
 そうそう、お仲間には人間だけでなく、幽霊も加わります。いかつい風体のオッサンだけれど心優しい菩提さんに、かわいらしいリンネちゃんです。

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 さて、タミーには実は、サイが霊能力者であるなら、頼みたいということがあって、いわばギブ&テイクの関係を作ろうとしていました。
 それはかつて海で出会い、地震津波でそれっきりになってしまった少女を探して欲しい、という想いでした。その調査を霊能力者に依頼するのですから、一定以上の確率でその少女はもう死んでいるという覚悟もあったんだと思います。

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 そしてタミーは徐々に、探し求める女の子に近づいていきます。
 タミーは思い出の少女に会えるのか?

 小山田先生の作品は、順次復刻されていますので、興味のあるかたは、そちらでどうぞ!(既に復刻されてるのか、これならなのか、調べてないですごめんなさい)。
 全3巻と短いながらも、小山田先生らしい作品だと、私は思います。(本当はもっと短い(全1巻)「きまぐれ乗車券」、とか、すげー好きなんですけどね)


(156-586) 

【 我が名は狼/たがみよしひさ 】

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 長野県の高原にある家族経営のペンションにやってくる若い女性客を、狼(ウルフ)こと犬神内記という居候が、次々コマスお話です。ベッドシーンは再々登場しますが、エロマンガではないので、行為の描写で読者を性的興奮へ導くわけではありません。かといって、シた事実だけが伝わるような描き方でもなく、行為の最中にも普通の会話が続いていたり、思索に耽っていたり、時にそれが哲学的でもあったりするなど、冷静に考えたら現実離れしているものの、作品の流れ的には全く違和感がなく、それがたがみ先生のベッドシーンの特徴でもありますね。
 ペンション「たかなし」のオーナーは、高梨夫妻。娘が3人いて、長女誠は幼子「主税(ちから)」を連れた出戻り、次女静には小林幸男という婚約者がいて「たかなし」のコックをつとめています。三女聖は狼にわざわざ二十歳と名乗っていて、ちょっと気になる様子。ここに狼が加わったのは、主人の高梨と狼の父が旧知で、高校を中退してバイクで日本中をブラブラしてる息子の心配をした狼の父に頼まれたから、ということになっています。

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 狼は喜美という女性と「たかなし」に向かう道中知り合いベッドイン、「たかなし」に着いたらさっそく一人旅の女性客である悦子を抱きます。第1話でこれもんですから、後は推して知るべしな物語展開。
 5人組(カップル2組+女性1人)のようなグループが来れば、プラスワンの女性である円(まどか)をコマします。
 黒いRZ250に乗る智子とはバイク勝負をします。この時、狼はRZ350に乗っていて、「たかなし」にやってきた時に乗っていたバイクとは異なっています。盗まれて分解され部品をとられ、残りは捨てられていたとのこと。それで購入したのが中古のRZ350なわけですが、この元の持ち主が智子の別れたばかりの男だったのです。それで智子はRZ350に乗る男は嫌いだ、などと宣言し、勝負になるわけですが。
 排気量のハンデをなくすため、下り坂での勝負とします。狼は、俺が勝ったらどうしてくれると智子に問い、彼女は「抱かせてあげる、喜んで」と答えます。そして智子も、私が勝ったら? と訊き返します。狼は「抱かせてあげる、喜んで」とボケをかまします。こうしたボケはあちこちに散りばめられています。

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 旅の宿として「たかなし」にやってきて狼の餌食になる女性客のエピソード集として当初は1話完結スタイルで話が展開します。その合間にペンションスタッフたちの話なども挿入され、こういう捉え方をすれば「HOTEL」形式と似てます。但し、HOTELは真面目なホテルマンの話、我が名は狼はスケこましの話、という大きな違いがあります。
 ストーリーが進んでくると、ミステリー調のものも現れます。スキー場に週末ごとに出てくる雪女の正体は? みたいな感じです。雪女はもちろん人間のなせる技ですが、なぜ彼女はそんなことをせねばならなかったか、という謎を狼が解きます。やがて、殺人事件も起こり、やはり狼が探偵役を演じます。後に「Nervous Breakdown」という探偵ものが発表されてますし、たがみ先生はミステリーをやりたかったんでしょうね。でも、ここでは、色んなタイプの話のうちのひとつです。

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 狼の家出の原因となった姉(養女で血は繋がっていない)の水無美(みなみ)とよく似た美代子という女性が、狼に惚れて、近くの喫茶店で住み込みのバイトを始めます。このため、美代子はこの後も作品に登場することになるのですが、こうして物語が進むにつれて、再登場するコマされキャラも現れ、数話にわたる長めのエピソードも展開されるようになってきます。

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 ペンション「たかなし」の改築に際しては、狼の謀で図面が書き換えられ、ペンション内にマジックミラーや抜け穴などが設置されます。
 これらが狼の覗きやスケこましに度々利用されたりしたら、物語もしぼんでしまうし、狼は性根の腐ったヤツ、ということになるのでしょうが、折に触れ「たかなし」の従業員がこれらを利用し、「事件解決」というと大袈裟ですが何らかの役に立ってしまうという展開になるのです。
 男性のゲストキャラも登場します。しかし、まともなのは美代子を連れていった男(その代わりというわけでもありませんが、狼との賭けに負けてバイクを狼に取られます)くらいで、たいていはどす黒く、狼に成敗されたりしています。
 長女の誠と狼ができてしまい、しかし、狼は彼に惚れる聖を決して抱こうとはしません。抱きたい時に抱きたい女を抱きたいように抱くために、抱きたい女を抱かないこともある、という名台詞にてその理由が明かされます。

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 そして、物語はエンディングに向かいます。
 狼は2台のバイクを売り、それでも「足りない」と呟いて金庫漁りまでします。これを黙認する誠。もともと放浪者であった狼が、いつまでも「たかなし」にいるとは思ってなかったようです。「たかなし」を出るためにまとまった金が必要なのだと考えています。だからといってこそ泥のような真似を黙認するのは、誠らしくないように思えたのですが、ここは誠が、「狼はここを出ていくべき」と考えたのだと解釈しておこうと思います。
 しかし、もちろんこれにも、オチがありました。
 狼は「たかなし」を出ていく気などまるでなく、単に新しいバイクが欲しかっただけなのでした。新しいバイクの頭金のための金策だったのです。しかも、ペンションオーナーの名義でローンまで組んでいます。
 こんなことを誠らが許すわけありません。
 それまで居候然としていた狼ですが、この日から従業員として酷使される日々が始まりました。(全3巻、ただし1巻には巻数表示はありません。話数カウントは「獲物○○」)

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(239-982)

 

【 バード/青山広美・山根和俊】

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 麻雀漫画です。麻雀漫画雑誌も麻雀漫画も基本的には私はテリトリー外です。でも、例外もあるわけです。

 この原作者・作画家は、少年チャンピオンでなじんでいました。そちら(またいずれ紹介しますね)では麻雀に限らず、ポーカーやバカラ、ルーレット、ダイス、サバイバルゲームロシアンルーレットに至るまで、様々な種目に加えてオリジナルのギャンブルまで登場しますが、本当は麻雀が一番描きたいことなのかもしれませんね。
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 私は麻雀をやらないので、ガチな麻雀漫画は無理です。
 その理屈でいけば、ゴルフもやらないのでゴルフ漫画はテリトリー外なんですが、プロゴルファー猿(いずれ登場します)は好きです。ゴルフの基本的なルールもこの漫画で学びました。やはり少年誌連載でしたから、解説や説明 には力を入れたのでしょう。

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 さて、「バード」ですが、実はこれ、麻雀専門誌連載ながらも、本格的な麻雀漫画ではありません。
 イカサマ雀士姉妹「天使」を潰すために、日本競技麻雀連合が、やはりイカサマの名手である「バード」に、協力を依頼するのです。

 つまり、いかにイカサマをするかを魅せる作品です。

 これ以外の麻雀漫画は、「牌の音ストーリーズ」しか所持してません。みやわき心太郎(ザ・レイプマン、で、物議を醸した方です)先生の作品です。みやわき先生は、「麻雀をやらない編集者は信用しない」と言ったとかいう話を何かで読みましたが、まあそれだけ麻雀好きだったということなのでしょう。
 しかし「牌の音ストーリーズ」も、麻雀の競技を漫画にしたのではなく、麻雀を通して「生き方」を描いた作品なんですよね。この作品についても、そのうち書きますね。

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​ 話を元にもどしましょう。「バード」は全3巻、うち真ん中の2巻が未入手のままとなっております。
 話がそれてばかりいるのも、実は2巻がなくて、ストーリーの流れがよくわかってない、というのもあります。多分、この2巻がすっごくポイントなんだと思います。

(154-581) 

【 夕やけ番長/梶原一騎・荘司としお 】

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 梶原一騎原作、荘司としお作画による、古い作品です。タイトルから想像できるように、学園ケンカものです。

 「木曽中クソ中不良中」と呼ばれている木曽中に主人公の赤城忠治が転校してきます。そこは、番長連合に支配された世界でした。各クラスに1人の番長がおり、総番長ともいうべき関取番長がいて、さらに番長連合を取り仕切る「影の大番長」という正体不明の存在までいたりします。

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 赤城はこの番長連合とケンカで勝負をしていきます。ケンカをした相手とは後に親友となり、さらに強い相手とケンカすることになる、というありがちなインフレ現象を呈しますが、SFでもファンタジーでも戦争でもなく、基本素手での格闘ですから、いつまでもインフレが続くわけではありません。

 番長連合を改心させたり、これまでなかったスポーツ部を作って元番長連合のメンバーをキャプテンとして送り込んだり、自身は様々な運動部の助っ人をしたりと、木曽中はスポーツ名門校に変貌していくのです。
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 ストーリーの全体像はWikipediaに結末まで掲載されているので、知りたい方はそれを参照していただくとして、この夕やけ番長の入手について。古書店でちびちびと集めていました。全巻綺麗にそろってはおらず、手に入らないまま中抜け状態でその後のストーリーを読んだりなどということもそこそこありました。
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 で、時々、あれ? と、思ったりしていたのです。なんかストーリーの流れが違うな、と。

 実はこの漫画、冒険王に本編が、少年チャンピオンにサイドストーリーが同時に連載されていて、でも単行本は通し番号で発行、おそらく本編と本編の間にサイドストーリーを挟んで編集発行されていて、それで感じた違和感だったのだと思います。

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 2誌同時連載を知ったのは比較的最近のことで、それまではてっきり少年チャンピオン連載だけだと思っていたのです。確か、少年チャンピオン創刊号の表紙が夕やけ番長だったはずです。

 後年発行された復刻版ともいうべき単行本は、一冊500ページを軽く越え、定価も1600円というシロモノ。「これは全部揃えなくては」と思ったものの、ボーッとしてたら買い逃してしまい、2巻と4巻がありません。
 古いタイプのものは、コツコツと古書店で買い集めたもので、カバーのないものもあります。

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 古本と復刻版とで相互補完して大体全部読めてるはずですが、さて、どうでしょう?

 ラストは、スポーツ特待生として進学が決まっていたものの、友人の命を救うために自らが怪我をしてしまい、スポーツ人生を棒に降らざるを得なくなって、故郷の赤城山へ帰ることになります。

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 いや、こんだけ根性あって友人思いのいいヤツなやねんから、ハッピーエンドにしたれや! 
 とか思わないではありませんが、自分のことよりまず友人という、梶原美学を表現したかったのでしょう。

 カバー絵の無い5、6、8、10、11巻は掲載していません。また、オリジナルの1巻には原作者名のクレジットが無いですね。


(153-579) 

【 暁星記/菅原雅雪 】

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 三世紀かけてテラフォーミングした金星も、それから一万年、文明はすっかり失われ、人々は原始時代さながらの生活をおくっていました。

 樹木は1000メートルをこえ、地上部には日がささず、地獄と呼ばれています。人間は地獄と樹頂部の中間、木の股などの平坦な場所に村を築いて、巨大な生物を命懸けの狩猟などをして暮らしていました。

 ある日、ヒルコたち村の若い男衆がトゲトカゲの狩りにでかけます。その夜、人間の言葉を話す巨大なゴリラをリーダーとするシンザルに教われ、これをヒルコたちはなんとか撃退しますが、ヒルコは、彼の指示にだけ従う巨鳥シロクビに、怪我人であるアシカビとシバをのせてスズシロ村に先に戻らせ、他のメンバーは荷物(トゲトカゲの肉など狩猟品)を隠して徒歩で村に戻ろうとします。が、今度は別の人々の集まりの罠にかかってしまいます。

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 オチボ村の連中と、八分衆といわれる「村八分」となって村を追い出された者たちが作ったならずものの集団でした。

 スズシロ村からは、大人の男衆、サカキ、タモ、イボタが徒歩で、ヒルコの命令にしか従わないはずのシロクビが、マユミをのせてヒルコたちの所へ向かい、オチボ村の連中と八分衆が仲間割れを起こした隙に乗じて追い払い、収穫物を持って、無事に村に辿りつきます。
 このとき、ヒルコたちは役立たずとしてリンチにあっていたアシカビをスズシロ村に連れ帰ります。

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 スズシロの村からはナズナというオンナが、村同士の結束を強めるためにオチボ村に嫁いでいます。しかし、子供の死産が続いたために不吉として村から追放されていたことを知り、ナズナに惚れていたサカキは激昂。また、同様にナズナに恋慕の情を抱いていたヒルコは、村からの追放を覚悟の上で、ナズナ探しの旅に出ることを決意します。

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 しかし、腕っぷしの強いヒルコがスズシロの村を去ることは、村の地位を一気に下げることになり、スズシロ村にとって痛手です。
 サカキは一計を案じ、定期的に行われる市(物々交換の場)で催される対抗試合での優勝(優勝した村が地区の総名代として権勢を保持できる)という条件と、1年という期限をつけることで、ヒルコの旅を認めます。ヒルコの強さを他の村の連中に見せつけることで、各地でヒルコを動きやすくするという目的もあったようです。

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 試合の決着がついた頃、市場はまるで恐竜ような巨大な蜘蛛に襲われ、これを撃退することで、ヒルコは英雄に。一方主要なメンバーが市で抜けてる隙を狙って、八分衆が多くの大躯族を従え、スズシロ村を襲います。目的は女と子供の奪取です。村には火が放たれ、男供は皆殺しにせよとの号令がかかりした。

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 拐われた女子供は、どうやらオチボの村へ連行されるようです。オチボ村はスズシロにくらべて女子供の地位が低く、「あんなところへ戻るなら」と、オチボからスズシロへ嫁いできたツツジは、巨木から地面へ飛び降り自殺します。

 市場では突如現れた巨大蜘蛛が巣作りを開始、巣にひっかかった様々な獲物を得ようと、それ以外の獣たちも集まってきて、人間たちに残された道はもはや逃げるのみ。

 このような事態の中で、スズシロ村のサカキが、他の村の親分衆に提案します。彼らは「南四が一」と呼ばれる一帯にそれぞれ村を持ち、定期的な市で物々交換や対抗試合などは行うものの、それぞれの村の場所すら知りません。
 四が一は他に、北、東、西にもあり、さらに村を追放された女達が身を寄せあって暮らす村、八分者にされたものどもの集団、自由に各地を往来できる旅芸人の集団があります。

 ともあれ、小さな村がそれぞれ覇を競っていては大きな力に対抗できない、せめて南四が一はひとつになろうと提案、受け入れられます。
 そこへ、八分衆と大躯族、オチボ村の連合軍が押し寄せ、にらみ合いとなります。

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 そして、ここから物語の展開が変化します。
 1000メートルを越える樹幹部よりもさらに高くそびえ立つタワーが描写され、そこに文明人らしき人物がいて、助手らしき人から、ゴブリンたちが戦闘状態である旨、報告を受けるのです。
 コブリンとは、ヒルコ達のことです。作品内で多くは語られませんが、テラフォーミングされた金星に人間を含む生物たちの種がバラまかれ、文明人たちはそれを放置して観察を続けていたのです。
 金星はもともと大量の二酸化炭素に覆われた灼熱地獄の星です。その二酸化炭素によって光合成が進み、巨木が発達したことがうかがえます。

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 ヒルコは覆い繁る大木から落ちた大爺の死体を回収するため、地獄と呼ばれる地面を目指します。一方で、ナズナという魅惑的な女が男達を手な付けて新勢力をつくります。金星に生み出された原始世界はこうして混沌を深めて行きます。

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 ナズナのもとに、イナンナと名乗る女の幽霊があらわれ、地球の過去を話始めます。
 政府は既になく、統合管理機構により支配されています。地球環境は人の住める状態ではなくなっており、数十億人の金星移住計画が進行中。しかし、金星に送り込まれた人類は巨大植物の肥料に使われました。決して、平和的な移住ではなかったのです。
 (生きることに)何の意味も持たされず、管理機構の意のままに、毎日が生きるか死ぬかの狭間で命を継がなければならなかった人々の姿を見せられ、逃げ延びてきた人々が暮らしているはずの落人の村には男すらおらず、子も生まれず、未来はどこにもありません。
 ナズナは落人の村人を殺害し、村を出たのでした。

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 金星上で原始的な生活を送っている人類に、それぞれ村や派閥的なものができるのは仕方ないとして、管理機構(いわゆる上流階級)も一枚岩ではありませんし、地獄と呼ばれとても人類か住めるとは思われてなかった地上部に生活の拠点を置く村があったり、鳥を自由に操れる部族がいたり、ヒルコと先端文明の接近があるなど、どうも物語の開始時点からおおきく変わってしまっています。

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 物語のラストには、絵的には救いが描かれています。
 しかし、登場人物の台詞に、それはありません。
 生まれし者には必ず絶滅があり、悲劇しかないのだ、ということのようです。これこそがまさに、この作品の哲学なのでしょう。

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 そして、そのささやかな一生の中で、私利私欲にまみれて生きるのも、世のため人のために生きるのも、アナタの自由です、アナタの精神を充足されるのはどちらの生き方ですか? と、問われているいる気がします。
 その精神の充足を感じるか感じないかもアナタ次第、神は関係ありませんよという示唆もそこには、含まれているのでしょうね。
 そしてまた、「金星」を舞台にしてるから冷静に読めるかも知れませんが、これはまさにいま、「地球で起こってることなんですよ」という警鐘とも受けとれます。(全8巻)

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(152-563) 

 収集に苦労した作品でした。
 6巻あたりまでは、モーニング連載作品だったと思うのですが、以後、書き下ろしなんです。
 最終8巻の情報はどこからともなく入ってきてたのですが、7巻を買い逃したまま絶版。
 古書に出回るまでにも時間がかかったようです。おそらく漫画喫茶が棚を開けるために処分したのでしょう。8冊まとめての販売しかありませんでした。まあ、仕方ありません。
 そのうち、本のスタイルの漫画なんか、無くなるかもしれませんね。でも、それくらいなら、本のスタイルの教科書、やめてくれませんかね? 重かった。しんどかった。つらかった。勉強なんかする気にならなかった。当時はせめて、上下2分冊にしてくれないかなと心底思ったものですが、今となれば、iPadでええやん、教科書こそ。

【 戦国獅子伝/辻真先・横山光輝 】

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 横山先生の作品は、バビルⅡ世とか、魔法使いサリーとか、鉄人28号とか、テレビでは色々と馴染みがあるのですが、コミックスは実はこの作品が唯一、所持してる作品なんです。これで漫画好きを名乗るなんて、おこがましいかも知れませんね。
 一方、原作の辻先生。
 辻真先先生といえば、古くはNHKの生放送ドラマにまで遡らないと語れない方ですが、さすがにそれは古すぎて、多くの読者がおいてきぼりになるでしょうから、せめてアニメや特撮の脚本、そして、ミステリーやSFに冒険小説の数々、紀行エッセイなどなどで大活躍の作家さん、とご紹介しておきましょう。
 「一休さん」のうちのかなりの脚本を書かれてますし、サザエさんは今でこそ引退されてますが、毎週放送の3本のうち1本は辻先生の脚本だった時代があります。特撮ドラマの脚本や、ミステリーを中心とした小説も多く、私は約200冊を所持しております。

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 ですが、意外とマンガ原作は少ないようです。その数少ないマンガ原作のうちの、ひとつが、これ。「戦国獅子伝」です。
 この他に、石川賢先生作画による「聖魔伝」、岡崎沙美先生作画による「バトルナイト剣」、庄司としお先生作画による「いくつかの野球漫画」、かづさひろし先生作画による「竜の棲む国美夢と魔夢」、所持してるのはこれくらいでしょうか?
「宇宙戦艦富岳殺人事件」は、漫画用原作ではなく、れっきとした「スーパー&ポテトシリーズ」のミステリーなのですが、約20本のこのシリーズ作品から単発で漫画になりました。立ち読みができた時代のことです。それで、サラサラッとページをめくったのですけど、残念ながらの出来映えだったため、購入しませんでした。
 今なら上手に漫画化してくださる漫画化さんがたくさんいらっしゃることでしょう。なにしろ、主題のひとつが「アニメ製作」なんです。アニメーター出身または大学の漫研アニ研出身の漫画家さんなら、いい感じに作画してくれそうに思います。
 六甲大学(神戸大学がモデル)のアニメ研究会で、自主製作されるアニメに絡んだ殺人事件です。しかも鉄道ミステリーです。アニメと鉄、2大オタクを取り込める作品ですから、ヒットしたことでしょう。しかも、従来のダイヤトリックを頭から否定しています。
 鉄道ダイヤトリックのひとつの方法として、別の交通機関を使うというのがあります。この作品では飛行機です。しかし、微妙な分単位のダイヤトリックを、ダイヤが乱れがちな飛行機で犯人がアリバイトリックなどに使うのはリアリティーが無い、と指摘してるわけです。

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 さて、戦国獅子伝は、大人向けエンターテイメント作品で、辻先生には珍しいハードなSMシーンなんかも出てきます。
 最初は歴史上の偉人をモチーフにしたものかなと、タイトルから勝手に想像していたのですが、そもそも中国史に詳しくない私にわかろうはずもなく、むしろ戦乱の世をたくましく生きる一人の男の生きざまを描いたものだったのでは? と、今では思っています。
 横山先生の体調が思わしくなく、適度なところで打ち切ったというエピソードをどこかできいた覚えがあります。

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(151-555) 

【 風の宿/小山田いく 】

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 宿は「やどり」と読みます。連載中に「これ、ドラマ化できるだろ?」とか思ったりしてました。

 小山田先生は既に故人ですが、もし「この作品を私の最高傑作と評価してくれる読者がいたら、嬉しい」なんて言って下さったりしたら、私も嬉しいですね。

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 勤務先の院長のやり方が気に入らない鹿間は動物病院を辞職、女房にも逃げられ、娘の諷子を連れて田舎に引っ込み、自ら動物病院を開業します。
 そして、同級生といきなり居酒屋のシーンですから、少年誌連載漫画というより、大人向け作品の風情が漂います。
 おそらく日常の描写で深い意図はないものと思いますけど、諷子と同年代の読者が読んだとして、「ふうーん、大人ってこうやって旧交を暖めるんだあ」とか感じてくれるのなら、それはそれで少年誌に大人の飲酒シーンが登場することにも意義がありますね。

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 都会暮らしと母が恋しい諷子は、こんな暮らしは嫌だと心を痛めますが、田舎の風土や人情に癒されて徐々に新しい暮らしにもなじんでゆきます。
 一方、いきなりの開業で患畜もなく、昼間からウイスキーを飲んでる鹿間。そこへ担任の先生やクラスメートたちがやってきて「ウイスキー先生」なんてあだ名までつけられて…。

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 動物にまつわる話ですが、ペットだけでなく、野生動物や畜産動物などの話、田舎暮らしや自然、民話にまつわる話、人情もの、子どもたちの繊細な感情に触れる話など、動物病院物語の範疇を超えて心温まる人間ドラマが展開します。
 いま、大人が読んでも、堪能できます。主に一話完結で、重すぎもしない。劇場映画や舞台、テレビドラマなど、様々な原作として秀逸な作品だと思うんですけどね。
 地味な作品ではありますが、全8巻と小山田作品としては3番目に長い作品ですから、評価は高かったのではないでしょうか?

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(全8巻)
(150-551) 

【 LOV-HO!/山口よしのぶ 】

 青春恋愛モノです。
 1巻と3巻しかありません。これだけでも、よくぞ手に入ったものだ、というべきでしょう。古書です。
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「名物! たびてつ友の会」の作者、山口よしのぶ先生の、初単行本化作品です。全7巻あるようです。

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 1巻のカバーの内側に作品紹介の小文がありますので、引用してみます。

『親父が経営するラブホ(ラブホテル)に住む藤代貴之は高校1年生。市内のどこからでも見える豪華絢爛なお城風ラブホテルの一室を自分の部屋にしている彼の初恋は小学1年生の時に出会った年上の少女。
 その彼女とこの夏偶然再会するが、9年間想っていた貴之と違い彼女は貴之のことを忘れてしまっていた。衝撃を受ける貴之だが初恋を実らすため彼女にアタックする!! 青春の様々な出来事を経て大人になっていく少年を描く第一弾!! 』

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 カバーの返しに作品紹介があるなんて、立読み可の時代、ですね。
 奥付を見ると1993年の発行です。前世紀とはいえ、一応平成ではありますね。

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 高校生ですが、当たり前のように飲酒シーンがありますし、いかにも不良って感じが漂ってはいるものの喫煙シーンもあります。スクーターにノーヘルニケツしかも見開きなんてのも。

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 まあ青年誌だから、今でも飲酒喫煙はアリかもですが、ノーヘルは今なら多分ナシですね。もっとも小山田いくさんの作品は、少年誌でも中学生の飲酒シーンがかなりありましたし、そういう時代だったんだよなーって思います。

(149-543) 

【 ガーリー・エアフォース/夏海公司・瀬口たかひろ 】

 瀬口先生の最新作です。

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 中国新疆ウイグル自治区で開催されてる航空ショーを、高校生の少年、慧は地上から見上げていました。母がパイロットをつとめているのです。
 そこへ、一機の戦闘機が突入、ショーを行っていた3機編隊の戦闘機は次々撃墜されました。母の生存は絶望的です。
 ザイ(災)と呼ばれる正体不明の戦闘機に中国は蹂躙され、混乱していました。ザイの急上昇急下降急旋回が可能な高機動力に、人民軍はなすすべもなく、世界の国々も中国の状況を不安視しているようです。ザイと呼ばれる軍事勢力が勃興し、政府のコントロール力を上回りつつある、ということのようです。
 中国は日本に脱出船団を要請しました。慧も明華とともにこの船で中国を脱出し、日本へ向かいます。明華は中国人ですが神戸に住んでいたこともあり日本語が堪能です。その頃から慧の家族とは懇意にしていて、慧と母が中国に渡ったあとは、言葉も慣習も何もかもが違う異国での生活を慧が送るのを、明華は心の支えとなって助けていました。
 航空ショーには明華とその家族も来ていたのですが、撃墜の混乱の中ではぐれてしまい、親兄弟の生死も不明です。そんな中での来日でした。
 ところが、日本へと向かうその船が、ザイに攻撃されます。救命艇で海へ出ますが、ザイの攻撃は執拗です。しかし、もうダメかと思われたその時、深紅の戦闘機があらわれ、ザイと同等かそれ以上の機動力を見せつけ、ザイを撃墜します。深紅の戦闘機は戦いには勝利したものの、なぜかふらついて海上に墜落しました。
 海上には浮かんでいたので、慧が救助に向かいます。深紅の機体だったのでそれまで気がつきませんでしたが、白く縁取りされた赤丸が描かれています。日本の機体? 自衛隊? 母親が飛行機乗りなので慧もそれなりに詳しいはずですが、こんな機体は知らない、といった反応を慧は示します。

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 機体に取りついてキャノピーを叩くと、コックピットが開いて、中には中学生かと見まがうような少女が搭乗していました。
「大丈夫?」と、声をかける慧。少女は無表情です。苦しそうにはしていないので、どこか怪我をしてるとかは無さそうですが。
 戸惑う慧に、少女がとった行動は、キスでした。
 そして、残した言葉が「新たな時代を」です。
 そこで場面が変わるので、その後のことがすぐにはわかりませんが、後に「制御不能になって墜ちたこの戦闘機は、慧がやってきたことで再起動した」という説明がなされますから、再び空中に飛び立ち、帰還したのでしょう。

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 日本に帰国した慧は、小松の祖父母の家に身を寄せます。家族の生死が不明なままの明華も一緒に居候します。明華は模範的な居候で家事全般一生懸命お手伝いをし、慧にも買い物を命じたりします。慧が中国に渡ったとき、慧の母から「よろしくね」と言われて以来、お姉さんきどりのようです。
 慧の外出中に、明華は「自衛隊航学生受験のための問題集」を見つけ、慧が自衛隊を志望してると知ります。「何を考えてるのよ!」と、頭に血を昇らせます。一方慧は、トレーラーで移送中のあの紅蓮の戦闘機を見てしまいます。自転車だったので追いかけますが、もちろん追い付けません。しかしここは小松。行き先は小松基地(小松空港)だとアタリをつけました。
 自転車で小松基地へ向かいますが、コンクリート壁のため、中を窺うことができません。ようやくフェンスの部分を見つけて覗き込むのですが、やはりよくわかりません。
 そこへ明華が追いかけてきて、自衛隊入りを猛烈に反対します。私はこの異国の地で知り合いは慧しかいないのに? 友達とも家族ともはぐれてその生死もわからない、その上、慧まで兵隊に行くとか言い出して、それを心配しちゃタメ? 明華の心の叫びが声になります。
 そんな2人を、前後から車で挟む黒服の男たち。慧と明華は何者かに拉致されてしまいました。

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 床の冷たいだだっぴろい部屋。そこで慧は、マシンガンの銃口をむけられます。そして、まさしく射撃されようとしたその直前、エンジン音が響きます。そこには、あの紅蓮の戦闘機がありました。
 中国からの帰国の船上でザイからの攻撃を救ってくれたその機体は、しかしその後、海上に堕ちました。でも、慧が近づくと再起動したのは前述のとおりです。そして今、慧がピンチに陥った瞬間に、その機体に再び火が入ったのです。
 慧を拉致した男は、自衛隊の技官で、八代通と名乗ります。対ザイ戦の研究をしてるとのことですが、紅蓮の戦闘機の開発運用の責任者と思われます。

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 慧は説明を受けます。
 ザイの戦闘機の急加速、急旋回は人間の耐えられるレベルを越えている。有人では実現できないこの機動性をHiMATという。それは、ミサイルの照準もできない敏捷な動き。もし運良くロックオンできても、一種の妨害電波でミサイルを迷走、自爆させる。こをEPCMという。これは電子機器のみならず、人間の五感も狂わせる。これに対抗するために開発された無人機が、ドーターである。
 とまあ、だいたいこんな説明です。しかし、ドーターは不安定で、まだまだ使い物になりません。現に慧の目の前で墜落しています。ところが、慧(八代通にとっては見知らぬ少年)がキャノピーにとりついたとたんに再起動をしました。その時の少年が小松基地の防犯カメラに写ったので、八代通は慧を確保した、とのことです。そして、八代通の目論み通り、慧が銃撃されそうになったその瞬間に、沈黙していたドーターは、またしても目を覚ましたのです。
 彼は慧に「ドーターを飛べるようにしてやってほしい」と頼みます。慧にとってはわけのわからない依頼です。それに慧は、ドーターのコクピットに女子中学生かと思えるような姿ではあるものの、パイロットを確認しています。
 操縦席にいたのは、人型の「自動操縦装置」アニマだと説明されます。そして、JAS39というドーター機の自動操縦装置グリペンとして、見覚えのある少女を紹介されます。グリペンはまるで本物の人間のようにそこに立っていました。
 八代通によると、このままだとグリペンは廃棄処分になるとのことです。しかし彼は研究者として最後の最後まであかいてみたい、とも言います。慧は翌日から小松基地に通うことになりました。入隊に反対している明華には、「売店のバイト」と嘘をつきます。

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 この日、アメリカの正規戦力が中国に投入されることが発表されました。テレビのニュース画面には、空母を始め多数の艦隊が写し出されています。これでザイから中国を救おうというわけです。

 翌日、慧は小松基地を訪ねますが、八代通はおらず、直接グリペンが出迎えます。グリペンは隊員食堂に向かい、慧にはお茶を奢って自分は朝食を食べます。兵器が食事をするのかと驚く慧ですが、それだけではありません。慌てん坊だし、天然っぽいし、まるで不思議ちゃんと慧が指摘をすると、「それ以上言うと怒る」とまでグリペンは言います。
 普段は散歩や昼寝をしているとグリペンはいい、ならばと慧は二人で散歩に出ます。基地の外れにある昔の掩体壕(えんたいごう=基地を爆撃されたときに飛行機を守る防空壕のようなもの)に、グリペンは慧を案内し、「秘密基地」と言います。おもちゃなんかも持ち込まれています。
 秘密基地で慧は、グリペンと会話しながら、いくつかのことを訊くのですが、やがて彼女の携帯が鳴り、「検査の時間。また明日」と去ってゆきます。ここまでの描写では、グリペンはまさしく人間。人型のAIとも、兵器とも、まるで思えません。
 そして、1巻の最終ページには、なんの説明文もありませんが、アメリカの艦隊がめちゃめちゃにやられているシーンが描かれています。
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 原作はライトノベルです。アニメ化の際にメディアミックスの一環としてコミカライズされたようですね。
 僕はアニメ好きには天国である兵庫県(独立U局サンテレビがあり、めっちゃアニメをやってる)にいるおかげで、「ハクメイとミコチ」「ゆるキャン」「クジラの子らは砂上に歌う」「竜王のおしごと」「がっこうぐらし」などに偶然観て出会うことができたのですが、この作品は知りませんでした。コミカライズの担当が瀬口先生でなければ、多分知らないままでしたね。瀬口先生のツイッターに書いてあったので、購入したわけですから。
 さて、原作の小説は随分話が進んでいるようで、「小説を紹介しているサイト」などを読むと、マンガ1巻だけではわからない様々なことも書いてあります。が、ここではそれらには触れず、純粋に漫画のことだけを書いています。
 もともと文章(小説)だったものが漫画になり、そのあらすじやら自分なりの解釈やら感想やらをまた文章で書くというのは、なんだか不思議な気分になります。
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(238-973)

【 チャット式恋愛術/瀬口たかひろ 】

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​ 瀬口先生のちょっと古めな短編集です。

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 転校してきた女子生徒が女の子たちのグループに馴染めずにいます。木坂君は机をくっつけて一緒に給食を食べるのですが、給食に利尿剤を入れらるというイジメにあって、教室でお漏らし。木坂君は彼女を保健室につれていき、そこでそのままエッチなことに。

 別のお話では、受験生の岡本君が休日に予備校(または塾)へ向かうと、クラスメイトで遊び人の植村と姫崎さんがデートをしているところに出くわします。しかも、姫崎さんは首輪をしています。そういうプレイのようです。
 さらに植村と姫崎さんがエッチするところまで岡本君は見物させられ、その後姫崎さんと・・・なんてのもあります。

 女性教師が宿直している(そういえば、学校の先生って昔、宿直ってのがあったんですよね。なんのためにあったんでしょうねえ?)その部屋へ酒を持って遊びに来た遠藤、二人はその夜、そういう関係になってしまいますが、女性のはずの先生は、男女双方の性器をもつ半陰陽でした。そんな2人の夜の営みは? というストーリーもあります。

 メイドさんにあれこれ世話をしてもらっていた少年が、ある日、メイドさんと関係を持ってから立場が逆転し、関係を続けてもらえる代わりにパシりをさせられるようになった、というのもあります。

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 そんなこんなの全10編。

(237-972)

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【 時間の歩き方/榎本ナリコ 】

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 榎本ナリコ先生の、タイムトラベルもののSFです。
 この方の描くヒロインの女の子、とても可愛いです。華奢で儚げで。
 でもまあ、特殊な場合を除き、ヒロインが可愛くないなんて普通はないので、可愛いから好きというのではなく、好みのタイプだから好きということなんでしょうね。
 1話完結ものも、長編も描けるし、どちらも読み応えあるし、もっと脚光を浴びていい作家さんだと思うんですけどね。    

 ところで、この作品に書店で出逢えたのは奇跡です。掲載誌はネムキというマイナー誌ですし、出版社は朝日新聞社朝日新聞社がコミックを出してることを知ってる人がどれほどいることでしょうね。

 レーベルは、ソノラマコミックスと背表紙にはありますが、奥付には、眠れぬ夜の奇妙な話コミックスとなっています。これは、ネムキという名前になる前の雑誌名です。

 この作品が出てるのは知ってましたが、まず入手不可能だろうと思ってました。実は持ってるのは2巻のみです。ネット調べたところ、電子書籍版しかなさそうで、どこかで古書に巡り会えないかなと期待しています。

 今回、再びざっと目を通そうとしたところ、また、やってしまってることに気がつきました。買ったけど、読んでなかったようです。内容に全く記憶がありません。
 なにしてるんだろうね、自分は。そういえば一時、心が疲れ果てていて、書店で目に付いたマンガをゴッソリ買って、でも家では酒を飲みながらネットゲーム、妻ともほとんど会話しないという時期がありました。

 今は回復していますが、酒とネトゲで無意味な時間を浪費することで、心の疲労で崩れつつあったバランスをなんとか保っていたのでしょう。妻が自分のことを放置して好きなようにさせてくれてなかったら、うつ病になっていたろうなと思います。
 酒とネトゲという無意味な時間から、リアルで意味のある本来の世界へ引き戻そうとせず、好きなようにさせてくれていた妻には本当に感謝です。

 さて、時間の歩き方。例えば、こんな話です。
 ある日、井村遇太という少年が、「タイムラグーン」という時間の流れのない世界に漂着します。そこで彼を待ち受けていたのは「ツアイト」と名乗る青年。ツァイトはドイツ語で「時間」のという意味です。

 ツァイトによると遇太という少年は、最初から時間(人生)に組み込まれていたか、時間旅行の禁足事項に触れて時津波に流されここに漂着したらしい。
 ここに来るのは大変らしいのですが、出ていくのは簡単で、てきとーなドアから外に出ればいいのだとか。
 でも、その出た先で昔の自分を助けることになり…。

 あれ? よくわかんなくなってきたぞ。ま、いいか。とりあえずそんなお話の連作です。

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(148-541) 

【 てつボン/永松潔・高橋遠州】

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 二世議員鉄道ヲタクの主人公が、鉄道への深い造詣と愛情によって、魑魅魍魎たる政治の世界を予想外の手法でのりきっていくお話。
 父の急死で、その気もないのに地盤を受け継がされ、仕方なく始まった政治家生活ですが、鉄道や交通を通じて築いた人脈を生かすのはもちろんのこと、人柄の良さもあって多くの人に受け入れられてゆきます。 

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 作風としてはのんびりした絵柄ですが、そののんびりした絵柄に読者は不意をつかれます。ある意味、主人公仙露鉄男が、痛快な逆転劇を繰り広げる作品でもあります。なにしろ、百戦錬磨の化け物たち(政治家)をも手玉にとったりするんですからね。

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 巧みに時事ネタや鉄道蘊蓄を取り入れられて、人気の定着した作品といえるでしょう。

 全部は紹介しきれませんが、比較的新しい巻からいくつか。

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 18巻では、パナマ文書、待機児童問題、北海道新幹線などが取り上げられています。 

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 19巻は、群馬がクローズアップされていて、碓氷峠、鉄道文化むら、上信鉄道、上毛電気鉄道わたらせ渓谷鉄道などが出てきます。

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 20巻は、特急ひだ、明知鉄道長良川鉄道、レールマウンテンバイクが、21巻では熊本・南阿蘇鉄道の復興のことも。「忖度」なんて流行語がそのまま話タイトルに使われたりもしています。

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 22巻は、駅弁参入の困難さ(駅弁は値引き販売ができないなんて、初めて知りました)、フリーゲージトレイン断念の話題、なんと単線新幹線構想まで。
 仮想通貨このとも、とりあげられています。

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(22巻まで)

(147-540) 

【 さよなら群青/さそうあきら 】

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 父と2人、無人島に暮らす少年、グン。だが、父が死に、父の言葉に従い、人の住む島に移住するため、小船で大海へグンは漕ぎ出しました。
 しかし、漂着した島の人々は、なぜかグンを異常なまでに拒絶します。たったひとり、海女の少女、岬を除いては。島の人々がグンを拒絶するのには、理由がありましたた……。

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 高い木の上から降りられなくなった猫を飼っていた幼女まみとも、猫を助けた縁で仲良くなります。

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 無人島で父親と二人きりで暮らしていたグンにとって、勉強の機会はほとんどありません。まみがグンに漢字を教えるのだと張り切ります。

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 とはいえグンは島の人間ではありません。また、島の人間はよそ者を極端に拒絶します。会合がもたれ、本土にグンは送りつけられることになるのですが、本土へ向かう船から逃亡、島に戻ってきてしまいました。

 漁業で暮らすこの島では、男は船に乗り、女は海女になります。特にグンと関わった人たちは、徐々にグンとの距離が近づいていきます。でも、それは特にグンと深くなった人だけで、相変わらず島全体としてはグンを受け入れてはいません。

 それは、島の過去に原因がありました。ヤクザ者がやってきて、最初は甘言を労して島にメリットをもたらすように見せかけ、やがて島を喰いものにしたのです。

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 しかし、グンは当時の事件とは関係がなく、また離れ小島で純朴に育った少年です。また、グンの存在に関わらず、人と人との暮らしのなかでは、様々なやっかいごとがおこります。

 そこに純朴なグンが何かと関わることで、島民のグンに対する意識も変化していくのです。

 そのようなストーリーなのですが、雑誌休刊で4巻が手に入らないままになっているました。

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 休刊後は、Webで連載が続き、全4巻として完結しているし、雑誌連載時のレーベルのままちゃんと単行本になっているという情報もつかんでいたのですが、おそらく発行部数が極めて抑えられていたのでしょう。ついに最終4巻は書店には並びませんでした。雑誌が存続していても、最終巻は入手しずらく、一部のヒット作や、新作の連載が予定されてれば話は別でしょうが、要するに「間もなく忘れ去られる作品」という位置付けで、連載終了作品は早々に見捨てられることが多いのです。部数を減らし気味にする出版社も、仕入れない書店も、これは熱心な読者に対する裏切りだと理解いただきたいと私は考えています。これでは自らの首を絞めているも同然で、それで出版不況もないものです。

 幸いネット古書で1円での販売を発見しました。送料が360円ほどかかりましたが(笑)。届いた品物は、古書だなんてとんでもない。明らかな新品でした。業者に依頼して費用を払って廃棄するくらいなら、古書を名乗って1円で販売し、購入者に送料を負担させてひきとらせる方が安くつく、ということでしょう。もちろん、読者としては、そのほうがどれだけありがたいことか。
 ほしい読者がいるのに、売りもせず、焼却処分なんて、もったいないにもほどがあります。
 他の出版社にも見習ってほしいですね。でも、それができないのは、倉庫に限りがあるから、というのも理解しております。

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 さて、肝心のグンと岬は、それぞれ大衆の面前で、「嫁にする」「旦那なする」と宣言します。
 グンはこのとき、おそらく小学校の真ん中へん、岬は中学を卒業して海女になったばかり、という年齢ですが、2人の未来に幸あれ、ですね。全4巻

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(145-515) 

【 D線上のアリス/伊原士郎 】

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 ロリ、エロ、ホラー、といえは千之ナイフ先生ですが、表紙絵を見たとき絵の雰囲気似てるなの感じて、それならと購入してみました。
 というわけで、中身も若干、写メしてみましたが、実際に購入して本編を読んでみると、うーん、何か違います。

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 エロより萌えに偏ってるかな、というのと、バトルシーンはごちゃごちゃしすぎな期がします。 

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 さて。死神社会における死神は、極めて人間と酷似しています。この格好で人間社会におりることは許されてませんので、骸骨の標本を与えられます。そして、死神たちは人間社会において、魂を刈るという使命をあたえられるのです。 
 ところがこの死神は、うっかり(?)生きた女子高生の肉体に入り込み、弾き飛ばされた女子高生の魂は骸骨の標本に入ってしまいます。
 で、巻き起こるドタバタなのですが、最後までお付き合いできなくて、ごめんなさいになってしまいました。

(144-511)