【 アメリカなんて大きらい!/高梨みどり 】
プロのカメラマンを目指す橘光がアメリカへ撮影旅行に行って消息不明となり、2年が経ちました。
光の帰りを待ちわびる恋人の舞子は、光の父親が経営するタチバナカメラ(中古カメラの販売や、カメラの修理が家業)に、足しげく通っていますが、実家にも光からの連絡はありません。
あの日までは、舞子に光から頻繁に日記や写真が送られてきていました。それが9・11以降、バッタリと途絶えてしまったのです。
舞子は光から届いた日記や写真を頼りに、光の足跡を辿る旅に出ようと決意します。
なんらかの原因で光が身動きも連絡もできない状態におかれているとしても、旅の足跡を辿れば、光の消息がつかめるかもしれないからです。
舞子は仕事を辞め、アパートを引き払います。光の父は、光のことは忘れて新しい人生を歩めと、舞子のアメリカ行きに強く反対するのですが…。
隠居していたはずの光の祖父が、秘蔵中古カメラの大放出会を開催して旅費を捻出、「1人では行かせられない」と、光の父も舞子とともに渡米することに。こうして、2人のアメリカ旅行が始まりました。
現地では移動手段として車を購入しますが、泥棒まがいのことをする羽目になるなどすったもんだします。これもアメリカの一面として描かれています。
ガンマニアとの出会いからアメリカにおけるガン社会の片鱗を知ったり、コロンブスより500年も前にヴァイキングが上陸していたらしいアメリカのとある街、カジノ、アーミッシュ(厳しい戒律による宗教の村)、ヒッピーのコミュニティーなどを巡り、様々な人と出会い、光の足跡を辿ります。
そのそれぞれの地で、カメラマンの卵である光は現地の人と交流し、理解を得ていった経緯を2人は知ることになります。
そして、ついにニューヨークでは、「最高のアメリカの風景を撮らせてやる」という人物と光が会ったことをつきとめました。エリートビジネスマンのパワーブレックファストの席に光は招かれたのです。
超高層ビルから見下ろすNYの街、あっという間にフィルム一本分を取り終えた光は、その場所に入れるよう取り計らってくれた協力者の「先に現像に出してやるよ」という言葉に甘えます。
そして、あの悲劇が起こるのです。
撮り終えたフィルムを協力者に渡していたおかげで、フィルム1本分の写真は無事で、舞子と父はそれを手にすることができたのですが、撮影を続けるためにビルに残った光は、テロの巻き添えになったのです。
こんなところにも、9・11テロを扱った日本人による作品があったんだ…。
以前からひとつ知っていたのは、シンガーソングライター沢田聖子さんの歌「息子からの伝言」です。あるネット評では9・11テロをモチーフにした日本で唯一の歌である、と記されていました。(他に本当に無いのかどうかはわかりませんが、「息子からの伝言」は少なくともYouTubeでは聴けます)
いずれにしても、日本人にはなかなか扱いきれない難しいテーマかもしれません。
人間も生存本能だけで生きていれば、自分が生き残る事が最優先事項になるはずで、他人の命などどうでもいい、ということになります。それを律する方法のひとつが宗教であるはずなのに、「このようなことが起こってしまうのは何故?」などと、考えてしまったりします。
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