【 アタゴオル/ますむらひろし 】
日本の偉大なファンタジー漫画を、私ごときが語ってよいのか?
そんな謙虚な気持ちを最大限持ちつつのレビューです。
主人公はヒデヨシ。2足歩行をする黄色いデブ猫です。TVドラマ「がきんちょ」や、ハウスシチューのCMキャラでお馴染みかもしれません。
舞台は、ヨネザアト大陸のアタゴオルという所。人間と、人間語をしゃべる人間等身大で2足歩行する猫たちが、ひとつの社会を形成しています。
東京郊外の私鉄沿線とおぼしきとある駅前。自動販売機と壁のかすかな隙間がアタゴオルへの通じています。
とはいえ、何かで読んだところによると、「この世とのつながりを表現して」との編集からの要望に、作者は仕方なく描かれたようで、以降この現実世界とアタゴオルの往来は全く出てきません。
どこかのあとがきだかなんだかで、「気が進まないけど描かされた」と作者の弁があり、「編集もひどいのとをするなあ」、とその時は思ったのですが、子供の頃にこの作品を読んだときの印象を先日、思い出しました。「アタゴオルの世界に、どこかでつながってるんだね」と。そして、その時は、テンプラ達アタゴオルの住人もこっちとあっちを行き来してるんだ、と。そう思うと、編集の注文も的を得ていたわけです。
とにかく無茶ばかりするヒデヨシ(主人公。黄色いデブ猫)ですが、第1話「影切り森の銀ハープ」から、さっそくピンチに見舞われます。
夜中に影切り森を歩いている途中で、雲の切れ目から月が出てしまい、なんとヒデヨシの影が切られてしまいます。影を切られると水晶に閉じ込められて死ぬのです。
オクワ酒場の親父の機転で、なんとか助かるのですが。
ここで紹介してるのは初期シリーズ。シリーズが沢山あり、複数社から刊行されてて、買い逃したら、たいていそれっきりになりますが、またどこかから刊行されたりで、重複所持もあります。写真はMF文庫判でいくつかのシリーズがまとめられてるらしく、全10冊ですが7冊しかありません。
でも、心配いりません。たいてい読み切りで、どこから入っても楽しめます。世界観なんてのは「等身大2足歩行猫」と「人間」が暮らす、ファンタジー世界とだけ理解しとけばいいのです。世界観なんてのはこの作品ではどんどん膨らむ一方ですから、読者は流れに任せて読むしかないのです。
毎回のように、「え? それ、どゆこと? その設定、初めて知った」の連続です。うふふ、だからいつまでも読み続けられるわけですね。
そして、たまに、ですけど、冒険譚的なものや、戦闘ものっぽい長編もあります。読みごたえ満点です。
ギルバルスという超人(超猫)的活躍をする強い猫もいるし、カニをバイオリンで操って散髪屋を営む猫もいます。
人間のキャラも、初期はタクマ、フーコ、テンプラなんてのが登場。一部の人はだんだん出番をなくしていって、レギュラーメンバーが変化していきます。でも、ずっと変わらないのが、テンプラ。
とにかくヒデヨシはタフで、だらしなくて、身体強靭で何でも食べ、常識がきらいで自由奔放、やりたい放題傍若無人、借金踏み倒しや食い逃げは日常茶飯事で出入り禁止のお店も多数なのですが、それでも愛想を尽かすことなく付き合ってます。
月見姫やテマリちゃんなど他の魅力的なキャラについては、「猫の森」シリーズでとりあげて、また語りたいところ。
作者のライフワークととらえられていましたが、「猫の森」シリーズで完結。
シリーズ完結というのが残念ですが、この作品と同様に、回を重ねるごとに新しい世界観がどんどん作者から提示されるファンタジー作品、というのが最近、現れました。「ハクメイとミコチ」です。これは小人さんファンタジーなのですが、アタゴオルと同じく後付けでどんどん膨らませることのできる設定になっています。「次はどんなん?」と、読者をワクワクさせてくれます。この作品については、またいずれ書こうと思います。
以前はWikipediaに、「パタリロ」との類似性が指摘されていて、私もそれに気づいていたので、そういう見方をする人がいるんだと嬉しくなりましたが、いつのまにかその部分は削除されてるようです。
例えば、強靭な精神と肉体を持っていること、白衣を着て変装すると○○博士という研究者になってしまうこと、物語を引っ掻き回す役どころでありトリックスターの役割を与えられてること、架空の土地を舞台にしながらモデルがあること、などです。
パタリロは最も長期連載している少女マンガらしいですね。
アタゴオルも、シリーズ完結といいながらも、スペシャルでかえってきたりしてくれると、嬉しいです。
(13-59)