【 大使閣下の料理人/西村みつる・かわすみひろし 】
主人公、大沢公はホテルの料理人をつとめていましたが、大量の料理を作る「歯車」であることを嫌い、1人1人に心を込めた料理を出すために、公邸料理人に転身します。
この作品で唯一、違和感を覚えるのは、ここ。
それなら公邸料理人でなくてもいいじゃないか、カウンターだけの小さな店でも、屋台でもいいよね? と思うわけです。
公が公邸料理人にならなければ物語が成り立ちませんから、「同じ動機でどんな料理人になるのか」ではなく、「公邸料理人しか選択肢がなかった理由」が欲しかったと思います。
確かに公邸料理人なら、重要な宴席や食卓外交のため、ひとつひとつ丁寧に心をこめた料理をしなくてはなりませんし、食材の入手方法が困難なものや高額な費用のかかるものもアリになるので、料理表現の幅は広がりますけどね。
さて、初期設定の違和感はともかく、中身は極めて面白い作品です。
困難ごとを料理で解決するという流れは、美味しんぼはじめいくつもの料理漫画で見られますが、同系統の作劇手法とひとくくりにするには、あまりにも良く出来た作品です。
公が仕えるのは、倉木ベトナム大使。倉木大使はかつてなにやらヘマをやらかしたらしく、大使のエリートコースからは外れています。本人の望みは中国大使なのですが、難しそうです。しかし、そこは公の活躍で数々の食卓外交を成功させて成果をあげていきます。
在ベトナムの他国の大使やその料理人は、ライバルであったり協力者であったりと立場が変遷しながら、やがてよき仲間として交流を深めることとなりますし、地元の人たちなどとも関係性を育んでいきます。
公が仕える倉木大使、ベトナム大使の任をとかれ、帰国してからは、日本を拠点とした遊軍大使となりますか、ここでも公は活躍。
やがて倉木大使は様々な成果が認められ、本人の希望が叶って中国大使の座を手にします。
作品は様々な登場人物で彩られますが、紹介し始めるとキリがないので、興味のある方はWikipediaで。
助手というか弟子というか、公の傍で常に公を手助けする人物が、この作品ではかなり重要な位置を占めます。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/大使閣下の料理人
豪華な食事を出せば良い、というものではなく、食卓外交に(倉木大使が)何を求めているのか、もてなされる客はそれを料理から汲み取れるのか?
そういったことを含めてのメニュー構成をしなくてはならず、難易度はたかいのですが、その分、読み手は堪能させられます。
全25巻。
(46-184)