漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 なでしこドレミソラ/みやびあきの 】

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 クラスで一番地味。一番遊んでなさそう。一番真面目でお堅そう。

 中学の卒業文集アンケートで見事地味の三冠王をとった美弥は、高校入学と同時にイメチェンのために派手な髪型に挑戦してみました。

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 少女漫画の画風に思えたのですが、男性向け寄りのコミックのようで、いわゆる萌え絵っぽいです。でも、作者は女性で、萌え絵を意識したものではなく、可愛らしい少女を絵描きたかったのでしょうね。

 高校へ進学し、地味脱却を目指した美弥でしたが、クラブ活動として勧誘されたのは、これまた地味な和楽器の世界でした。

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 勧誘したのは尺八歴六年の陽夜。乗り気でない美弥を、さっそく和楽器ガールズバンドのライブに誘います。

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 そこで美弥が観て、聴いて、感じたのは、「私もやりたい」「かっこいい」と言う思いでした。

 音楽を漫画で表現するのは難しいですね。とくに、読者にあまり馴染みのない和楽器となるとなおさらです。

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 僕も自分では和楽器バンドなんてテレビで観たことがある程度です。和太鼓の演奏はそれなりに生で聴く機会もありましたが。中でも強烈だったのは、1人で大きさの異なる太鼓をドラムスとして演奏する姿ですが、さすがにこれは一度しかありません。

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 さて、尺八や筝は、和楽器バンドのライブには行ったことがありませんが、そこそこ聴く機会はあります。しかし、三味線と洋楽器や、尺八とフルートなどのコラボなどで(あろうことか、そこにカホンで自分が混ざったこともあります)を聴いたことがある程度です。

 なので、さらに和楽器に触れる機会の少ない人に、漫画を通じてどれだけ伝わるか、少し不安でした。

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 バンドものの漫画は、僕も「愛の歌になりたい」「愛してナイト」「NANA」(なぜか全部少女漫画)くらいしか知らず、多くはないので、なおさらです。 

 でも、ズどーんと伝わってきますね。この漫画。漫画の表現技術によるものもあるのですが、やはり心がこもってるんです。和楽器への愛情、キャラ達への思い入れ、そして創作する世界観への情熱。素晴らしい作品です。

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 さて、バンドを組むには、尺八と三味線以外にも、メンバーが必要です。

 メンバー募集の張り紙に足を止めていた香乃に声をかけますが、香乃は一目散に逃げてゆきます。

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 そんな時、美弥は見学のため和楽器の生演奏ライブをやっている和カフェに行くことになりました。ところが、観客のつもりだったのが、出演者が急病で、美弥が急遽、代演に抜擢。初心者でレパートリーも限られますが、もう覚悟をきめるしかありません。ステージでは弦を切り、やり直すというハプニングまでおこるのですが 、居合わせた香乃に弦の張り替えを手伝ってもらい、再び立ったステージでは観客の暖かい見守りもあって、美弥はとても素敵な表情を見せます。

「私は下手っぴで、多分とても不格好。でも、楽しい」

すっかりその気になってしまいます。

 この部分、すっごくわかるんですよね。自分も、下手っぴで、不格好で、でもステージの上で、カホン叩いてて、とっても楽しいですから。

 明らかにミスしてんのに、ブーイングがおこるわけでもなく、また演奏ってどんどん先へ進みますから、ミスに落ち込んでる暇なんて、1秒たりともないんですよ。

 これに心を動かされた香乃、再び人前で演奏してみたいという気持ちになります。亊の稽古に励みながらも、かつて演奏中に倒れたことがトラウマとなって引っ込み思案に拍車がかかっり、人前ではもう演奏しないと決めていたのですが、初心者ながら演奏を心から楽しむ美弥に気持ちを動かされたのです。香乃はメンバーに加入します。さらに、香乃とコンビをまた組みたいと思っていた恵真も加わり、とにかく形になりました。

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 さて、ここからがこの漫画の凄いところです。
 音楽という華やかな世界で、それも珍しい(つまり作品として目立つ)和楽器バンドを題材に、読者受けしそうないくつかの典型的な萌えキャラ出して、定番の成長ストーリーやってりゃ、そりゃあ無難に人気は出るでしょう。でも、無難路線を行かない。

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 キャラは萌え絵っぽいですが、物語そのものに対しては真剣すぎるストーリーになっています。

 本当に部活に真面目に取り組んでる姿、ダメなところはダメと明言し、それを乗り越えようとする取り組み。それらがきっちり伝わるように描かれています。 

​ 作中の和楽器バンドは4人編成で、尺八、三味線、筝、十七絃(弦の数が17本のベース的な役割を担う筝、作中では十七弦と表記)。

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 どんなバンドでも、個々のメンバー間に技量の差はあるでしょう。ここでは三味線奏者(主人公)が初心者という設定です。

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 でも、足を引っ張るのは初心者だけではありません。音楽を合わせる、すなわち合奏では、上級者こそが足を引っ張ることもあるのです。こういった課題に、正面から取り組んでいます。演奏の技量とは別の次元で、これは大切なことなんですよね。作者にバンドの経験がおありなのかもしれません。

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 また、「何となくやってるぬるーい趣味部活」ではなく、どんな曲をやるのか、どこでやるのか、といった目標設定も、ストーリーのなかで課題として語られます。
 そしてなにより、演奏してる姿の描写が素晴らしい。表情もいいし、カッコ良く描けています。

​ ただし、彼女達の運の良さだけは、指摘しておかねばなりませんね。美弥は代演という機会を得て、初心者ながらステージに立てたわけですが、普通はなかなかそんな機会は得られません。ノルマを果たせばライブハウスには出られますが、ノルマを果たすとは自分でお客さんを連れてくるということです。人数が足らなければ自腹を切ります。もちろん、それ以前に、技術的にお店の出演基準をクリアしてる必要がありますが。
 でも、この運の良さは、現実にあるのです。実は私もそうで、ストリートやタイバンの経験なしで、最初から2時間のフルステージに立たせてもらったのです。これはどうやら稀有な例です。運とタイミングと環境と周囲の力に恵まれたおかげです。

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 しかし、運も実力のうち、といいます。
 学校生活を舞台にしているので、文化祭という発表の場はあるのですが、文化祭はここでは和カフェよりもハードルの高いステージとして位置づけられています。その理由はのちほど。

 さて、作品世界のことを少し説明しておきましょう。

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 最初に美弥が陽夜に連れていかれたライブに出演していた和楽器ガールズバンドですが、「AWAYUKI」という名前になっています。そのメンバーで、三味線奏者、おそらくリーダーなのが「あわゆき」さん。後に、美弥の指導をしてくれたりもします。

 それから、美弥たちが演者の急病で代演することになった和カフェは「ひびき庵」、お店の名前はあまり出て来ないので、ここでは「和カフェ」としときます。
 オーナーなのか雇われなのか関係者や協力者という立場なのかわかりませんが、香乃の母が和カフェの演者を段取りしているようです。香乃の母は亊のお師匠さんでもあり、家で教室も開いています。香乃はいわばサラブレッドなわけですね。

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 その香乃の母のつてで、とあるお寺で合宿をさせてもらえることになります。
 そして、合宿を終えた4人は再び和カフェのステージへ。お客様アンケートの洗礼を受けます。良い評価もありますが、否定的な意見もあります。香乃の母は、「否定には、期待と可能性が含まれている」といいます。うーん、これって単なる励ましではなくて、本気モードで言ってますね。
 この和カフェライブには、美弥の母も聴きにきていました。娘の三味線の本気度を知り、三味線を買ってもらえることになります。
 棹だけで27万円。いやー、私のカホンが2万7千円ですからねー。10倍ですね!
 ところで、「じゃあ今まで三味線は持ってなかったの?」ということになりますが、その通りです。美弥はこれまで、レンタルしていたんです。1週間とか1ヶ月とかの単位でのレンタルがあるんですね。
 持ち運びできるサイズの楽器でも音楽教室なんかではレンタルがありますが、自宅に持ち帰って練習できるようなレンタルって、例えばバイオリンとかギターとかでもあるんでしょうか?

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 新しい三味線を持って部室を訪れた美弥、そこで待っていたのは憧れの三味線奏者、あわゆきさんでした。あわゆきは美弥たちの通う高校のOGだったのです。「自分に影響を受けて三味線を始めた」美弥に嬉しくなって、部活指導者として学校へ出入りする許可をもらってまで、やってきてくれたのです。

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 実はこれも、さほどご都合主義な展開ではありません。
 よほどの天才とか並外れた努力家とかなら別ですが、指導者についてお稽古するのが普通ですし、プロのミュージシャンでも演奏だけで食べていけるのはほんの一部で、レッスンをしてる人や、音楽の非常勤講師をしてる人など、決して珍しくはないのです。
 美弥の場合は、レッスン料を払ってはいない、押し掛け講師のようですけどね。そこは、卒業生という縁で。

 この指導のシーンが、またいい! あわゆきが発したたった一音が、ものすごい迫力と美麗さで、鳴り響きます。部室にいた美弥と陽夜は、聴き惚れるしかありません。
 その後のレッスンで、美弥もこれに酷似した音を出すことができて、「いい!」と誉められるのですが、それは練習でたくさん音を出す中で、たった一回、偶然に出た音です。これが常に出せるように練習するわけですが、初心者が練習の最中に何かの拍子で偶然に「いい音」が出てしまうのもリアルな話なんです。
 そして、これがこの作品の凄いとこなんですが、作品表現の中で、あわゆきが誉めているとはいえ、さっきあわゆきが出した素敵な音を、今、美弥も出した、というのがわかる絵なんです。

 この作品の音楽表現は、オノマトペを基本的には使わず、花や和柄や花火等が使われます。でも、この最高の音色だけは、花と擬音語の合わせ技で表現されています。そんなこと意識して漫画を読む必要はないのですが、まあそれだけ工夫が凝らされていて、読者によく伝わるということです。また、レッスンのシーンでは、「強く」「弱く」「やや強く」「やや弱く」と指示されるのですが、これがまたリアルです。初心者が陥りがちなメリハリのミスに、「全力かゼロか」というのがあります。でも、指導者につくと、この「やや」というのを習います。

 和楽器部活の4人は、当面の目標を「商店街の夏祭りのステージ」と定め、練習を始めます。演奏があると知って足を運んでくれる和カフェのお客と違い、夏祭り会場ではどれだけの人が足を止めて聴いてくれるかわかりません。夏祭りと和楽器はまだ相性がいいが、文化祭となるともっとハードルがあがると、恵真は言います。

 興味の無い人に聴かせるには、自分達は技術も魅力も足りない。だから、もっと自分と向き合わねばならない。恵真はそう宣言して、夏祭りでは4人組ではなく、より誤魔化しのきかないデュオX2組で出演することを提案します。
 しかも、それなりに経験のある陽夜と香乃が組み、初心者の美弥とは、香乃の引き立て役に徹していた自分(恵真)がデュオになります。
 そうして練習と葛藤を繰り返して迎えた夏祭り当日、4人は自分達より先にステージに立った篠笛と太鼓のガールズコンビの演奏を聴きます。奏でるのは祭囃子。雰囲気にピッタリです。どの演者が良かったかの投票があり、彼女達は優勝の常連だと知ります。演奏後に陽夜が声をかけ、中3と小5の姉妹コンビと知り、和楽器仲間として意気投合しますが、コンテストでは負けないと宣言されます。ライバルの登場です。

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 そして、陽夜と香乃の演奏。耳馴染みのあるJ-POPのアレンジでしかも夏の定番曲(TUBEでしょうか? 曲目は明かされてません)なんてズルイと篠笛と太鼓の姉妹は最初思うのですが、やがて2人の演奏に引き込まれていきます。
 投票の結果は、陽夜と香乃のデュオが1位、祭囃子の2人は2位、美弥と恵真は4位でした。

 4人の次の目標は文化祭です。夏休みは練習に明け暮れます。骨休めにプールに遊びに行くのですが、そこでAWAYUKIのメンバーの1人に偶然会います。彼女は監視員のアルバイトをしていました。僕などが書くまでもなく、音楽だけで食べていける人なんてほんの一部であるという現実が、ちゃんと作品内に描かれていました。
 美弥はそれを知り、レッスン代をあわゆきに支払おうとします。しかし彼女は、名取ではないのでレッスン代は受け取れないと固辞。ならばお金以外で何かお返しがしたいという美弥に、あわゆきは課題を出します。それは、文化祭のステージで「マネージャー連合」に勝つことでした。
 運動部の女子マネージャー達が合同でダンスを披露するのが美弥達の高校の文化祭における伝統で、全校生徒が楽しみにしており、毎年大いに盛り上がり、そして投票でも1位になるのが恒例なのです。
 あわゆきも高校生当時、和楽器ユニットを組んで文化祭のステージに立ちましたが、マネージャー連合のダンスパフォーマンスには破れました。彼女は「ステージに立つ前から負けていた」と言います。ここは、言葉を代えて説明するのが僕には無理なので、顧問の先生の台詞をそのまま引用します。

「学校には学生の文化があって、例えばプロのオーケストラがここのステージに立ったとしても、結果は変わらなかったと思う。ステージは作り手と受け手の両方で作るものなんだなって先生はそのとき思ったの」
 高校教師が高校生を「学生」とは言わない(正しくは生徒)だろうけど、そこはまあ重箱の隅なのでつつかないでおきましょう。
 マネージャー連合は、祭囃子姉妹に続く2組目のライバルになり、どちらも投票で優劣がつけられたりもしますが、誰に勝っただの負けただのは、音楽表現の本質ではなく、大切なのは表現者としての自分と向き合うことだ、という精神が作品の随所に散りばめられています。

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 作品内にそういう描かれ方はしていませんが、先生の言葉を借りれば「学生の文化」の一端になるための、4人の創意工夫がはじまります。アイディアを紙に書き出し、その中からやれることは全部やろうと取り組みます。セットリスト(演奏する曲目)も決めなくてはなりません。もちろん、練習も。
 美弥の心をざわつかせる出来事などもあり、2学期になって最初に部室で三味線を弾いたとき、他のメンバーは「音が変わった」と気付きます。心ざわつかせる出来事が美弥の精神的な成長を促していました。
 恵真の発案で、尺八の妖精作戦が開始されます。リクエストした曲を吹いてもらえたら恋が叶う、という噂を恵真が流し、噂を耳にした生徒が陽夜にリクエストするよう仕向けたのです。陽夜の耳コピ暗譜千曲という驚異的な能力を生かした話題作りです。
 この作戦は大成功。やがて危機感を覚えた軽音部の1人が、エレキギター持参でこれに参戦。即興のセッションをします。

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 バンドの練習だけでなく、文化祭ではそれぞれのクラスの出し物等の準備や練習なども行いながら、物語はついにクライマックス。文化祭の当日です。OGであるあわゆきや、祭囃子の姉妹、メンバーそれぞれの両親はじめ家族などもかけつけます。
 ステージに上がってから降りるまで、舞台袖でのやりとりなども含めると約40ページが費やされ、美弥達の輝く一瞬が描写されます。

 このあと、卒業生によるゲストパフォーマンスとして、あわゆきの三味線ソロ、投票の結果発表などがあり、後夜祭へ向かうシーンで物語は終了です。全5巻です。

 尺八の妖精からが5巻なのですが、5巻の半ば以降は、うるうるくるシーンの連続です。
 あえて省略しているエピソードもそれなりにあります。あわゆきがなぜ名取になれないのかとか、美弥が心ざわつかせたのは何故かとか、音楽を表現して聞き手に届けるとはどういうことなのかとか。ネタバレを防ぐためとか、実際に読まれる方のために楽しみを残しておく配慮などではなく、僕では伝えきれないと感じたからです。
 それらを抜きにして、うるうるには至れないので、「どうして、うるうる?」と感じられたことでしょう。そこは、すいません、としか言いようがありません。
 ただ、確かなのは、この作品は感動しますよ、ということです。

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 あと、補足です。
 各巻にあとがきがありますが、その中に作者がお師匠さんについてお稽古した旨の記述があります。やはり経験者だったのです。
 そして、この作品の特筆すべき点を付け加えると、恋愛ごとが皆無です。全くの他人事、通りすがりのエピソードとしてわずかにありますが、サブキャラも含めて主要なメンバーには一切恋愛関係の物語はありません。冒頭で、印象に残っているバンドものの漫画3作品をあげましたが、それらは基本的にラブストーリーでもあります。だから、「なでしこドレミソラ」は、極めて異例な作品でもあると思います。
 漫画はあくまで娯楽作品だと僕は思っていますので、「読んで勉強になる漫画を紹介する」などというスタンスでレビューを書いているわけではありませんが、楽器をはじめたばかりの人や、どうしても初級者の域を脱することが出来ないという人には、とても勉強になる作品でもあります。

 
 1巻と2巻は、書店で購入しました。それからしばらく間が開いてしまいましたが、まさか完結してるとは思ってなくて、3~5巻は慌ててネット通販で購入しました。
 電子書籍でも読めますが、カバーを外した書籍本体の表紙まで電子化されてるのかどうかは、知りません。この作品の表紙は、カバー絵をモノクロにしたものではなく、全く別物になっています。本のタイトルすら印字されていません。是非、物理的な書籍を手にとってご覧ください。

 LINE BLOGには、2巻までのことをいったん書いていたのですが、今回、全部書き直して、2巻までのレビューは削除しました。

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