【 私のアイザック/きくち正太 】
釣りマンガです。
きくち正太先生の作品は、雑誌連載では何度もお目にかかっていたのですが、「姐(アネゴ)」的女性キャラで描いてきた人という印象で絵柄も独特、なんとなく取っつきにくそうというイメージを持っていて、のめりこむことはありませんでした。
でもこの作品は、表紙に描かれた主人公に、「きくち色」を出しつつも、とっつきにくさが随分和らいで感じたのと、色合いが実に美しく心奪われて、先入観なしで購入してみたのです。内容の予備知識は全く無しで。それは、正解でした。
物語は、釣り雑誌の編集者が、取材に出掛ける所から始まります。とあるアウトドア達人のライターに紹介された、釣りの名人を訪ねる企画です。
辿り着いたのは、山奥の古びた家。そこで出会ったのは、まだ中学生の女の子。釣りの名人とは彼女のことだったのです。さらに案内された釣り場は、なんの変哲もない田んぼの間を流れる小川でした。
そんな小川で、ウグイ、アカザ、オイカワ、ヤマメ、コイ、カジカ、ナマズ、ヤツメ、ゴリなんかが次々釣れるのだというのです。
彼女の祖父でしょうか、じっさまと呼ばれた老人は「川が普通ならそんなの当たり前に釣れる」と、自然の大切さや豊さを語ります。「ダムができた立派な川では、金と引き換えに無くしたものが多数ある」とも語ります。
取材に訪れた記者は、その何の変哲もない平凡な小川で、釣りを堪能し、自然の恵みを目一杯受け取りした。
「本当にいい場所はぜったい記事にしない」
ここを教えてくれたアウトドアの達人なる人物の言葉を思い出します。
記者は、苦い経験がありました。
かつて釣り雑誌である場所を紹介したら、マナーを守らない釣り人が大挙して、編集部に苦情の電話がじゃんじゃんかかってきたことがあったのです。
この小川は、守られねばならない場所。そう考えた記者は帰りの電車の中で、「今回の取材はなかったことにしよう」と、決心します。
別のエピソードも掲載され、表紙にも「1」とあり、巻末には「2巻に続く」とも記載されており、長期連載の予感がしたのですが、2巻が出てません。雑誌の休刊が関係したのかどうか、連載は未完のままで途絶えてしまい、2巻も世に出ていないようです。
掲載誌を移籍してでも、続けて欲しい作品なんですが…。
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