【 山と食欲と私/信濃川日出推 】
山ご飯がいっぱい出てくるお話です。普通のOLをしている鮎美か、週末などを利用して、一人で登山を楽しみます。鮎美は山ガールと呼ばれることを嫌い、単独登山女子を自称。
山ごはんのハウツーものとしてはもちろん、また自宅でも楽しめるレシピが満載。それだけでなく、山のエピソードも面白くて、こちらもさりげなく初心者への登山や山ルールのアドバイスにもなっています。
山ごはんは、初期にはレシピというには大袈裟なちょっとしたアイデアとしてご参考に、という感じでしたが、だんだん本格的になってきたり、創意工夫が凝らさせてきたりします。のほほーんと食に触れた、ギャグ要素もそこそこありの、寝転がった気楽に読む娯楽としては、最適な作品。自炊好きならなおよし。
てなことを最初は書いていたのですが、その後、連載が続くにつれ、書き加えを随時してまして。4巻からは、内容にもふれるようになってきてます。こんな感じです。
4巻は前回の続きから掲載されています。ねんざのために登頂を諦め、本日は涸沢カールで滞在し足の回復を待ちます。
「あー、ひまー。」
なるほど、山で登山しないというのは、暇なんですね。
そこへ滞在組の男2人がトランプしませんかと声をかけてきます。若干警戒したものの、この男2人がカップルと知り安心し、すっかり、仲良くなります。
勝負の結果、男どもがビールをおごらされる羽目になりますが、 お礼に鮎美は料理を作ります。砕きミックスナッツのペペロンチーノです。
ナッツを食材につかうのはおおいに同意。おいしいんですよねー。
この他、伝説の山小屋、嘉門次小屋でのイワナの塩焼き定食、ヤマロス(しばらく山と疎遠になって、山が恋しくなる)対策の、都会で食べる山の食事、車で旅する1人旅女子と味わうミートソースカレー、山の冷水できりりと冷えた桃のまるかじり、ヤケクソで創ったおしるこ梅雑炊、下拵えをしていないチーズフォンデュ(ようするに生野菜に溶けたチーズをからめてボリボリ食べる)など、様々な料理が登場。
単独のはずか仲間も増えて、山コンだの、同僚の電撃婚などで、渋い出逢いや、意外な展開が連載漫画らしくなってきました。
さらに!
6巻から8巻も、新たに追加で記載したんですよね。
「単独登山女子」を自称する鮎美も、巻が進むにつれて、同行者のいるお話も出てきます。ただ、同好会やグループを作って、というわけではなく、「今回は誰々さんと共に」であって、基本はやはり単独登山。 時には同行者がいるときもある、という具合です。
6巻では雲取山編が3話、お母さんと立山編が4話、その他短編読切が収録されてます。
雲取山下山後の、地元の人向けの(観光客向けでない)やきとり屋でのやりとりが、もの悲しく心に残りました。山の話でなくて、すいません。
お母さんと立山編は、とてもいいお話です。付録に「社内報」がついてます。これは初版だけみたいですね。
7巻にも連続ものがふたつ。ひとつは金剛山&吉野山編。金剛山は大阪から登って奈良に下ります。登山回数を競ってる人の存在が描かれてます。金剛山を取り上げるなら、これは外せませんよね。
奈良への下山は、郵便道を使用。自分は稜線歩きをして車道の峠からダラダラと下った思い出があります。当時、郵便道を知ってたらなあ。なんで車道なんか下ったんだろ? もうひとつの長編は、日光白根山編です。初版オマケはステッカーです。
ステッカー、何かに貼りたいような、保存しておきたいうな…、悩みます。
8巻は、札幌藻岩山編&厳冬の八ヶ岳編に、短編がいくつか。
「山と食欲と私」ですから、食べ物のことも書いておきましょう。
菜の花ラーメンの「あま苦でうま~」には、思わず頷きました。野草の苦味、私も好きです。
あ、8巻のオマケは「瀧本家のお引っ越し」です。
さらにさらに!
9巻が発行です。
鮎美に贈り物が届きました。車麩です。大量に、です。車麩というのは、お麩なんですが、サイズがドーナツです。ちゃんと真ん中に穴も開いてます。これを山ご飯にします。週末、とある山に出掛けた鮎美は、豚バラ、角切り餅の薄切りの上に、出汁で戻した車麩を載せ、穴に卵を落とした山ご飯を作ります(レシピ一部省略)。麩はグルテンなので、うどんをおかずにライスを食べるうどん定食の、ようなもの。パワーフードです。
南アルプス2泊縦走では、同じく単独登山女子の香山栄螺と再会、多くの行程を一緒に行動しながら、それぞれの山ご飯を披露しあいます。
登山を趣味とする人たちって、たぶんみんながみんな、ここまで食に創意工夫はしてないんだろうなあーとか思います。こういう楽しみかたを僕も20代の時に知ってたら、今でも山登りをしていたかもしれません。
テントを張る場所のノウハウも掲載されてます。ノウハウといっても、山に行く人にとっては、「うんうん、そうそう」でしょうし、行かない人にとっては「へえー、そうなんだ!」という感じでしょう。
そして、鮎美にとって2度目となる富士登山。1度目は学生時代のことで、ある後悔が残っています。
その他に短編がいくつか掲載されています。
現在、連載中&単行本も刊行中なので、様々なエピソードを紹介しつつも、あえて核心に触れてなかったり、すっ飛ばしたりして紹介してますので、後は購入してお楽しみ下さい。
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