【 走馬灯株式会社/菅原敬太 】
「ここって、いったいどんな施設なんですか?」
娘を事故で失い、妻にも先立たれ、職まで失った男が、フラリとやってきた想い出の地。そこには、見慣れない施設が建っていました。
(確かここは、植物園だったはずでは……?)
中から現れた眼鏡美女は「当館主任の神沼と申します」と自己紹介し、男を招き入れます。
そして、男が見せられたビデオは、自分の43年間の人生そのものを、自分視点から観たものそのものでした。つまり、当時見たものを、そのままもう一度見る、ということですね。
1年が1本のDVDに収められています。43歳の彼には43本のDVDが用意されていました。
男がまず目にしたのは、生まれたばかりの自分の目に映る父と母でした。
時の経過はリアルタイムですから、1年の記録を視聴するには、まさしく1年が必要です。早送りの機能があるので、時折それも利用しながら、それでも男が中学生になる頃まで視聴したとき、既に1週間が経過していました。
12年位をわずか1週間で観るわけですから、相当な早送りをしてるわけですが、だとしても、もし自分がそういう立場になったら、僕なら発狂するに十分な期間ですね。思い出したくないこと、黒歴史として封印してしまいたいこと、そんなことは山ほどあります。でも、その多くは忘れているわけですし、いちいち記憶に残っていたらまさしく発狂しかねないから、人間には「忘れる」機能が備わっているとも言われます。その通りだと思います。
それをいちいちホジくりかえすなど、悪趣味でしかありません。
その館では、頼めば食事も飲み物も持ってきてくれます。風呂もトイレもあります。半年間こもりきりになっていた人もいたと男は説明を受けます。
卒業、彼女との出会い、結婚、出産、そして、会社の女子社員との不倫などが、次々映像として再現されます。過ぎ去った過去は、日々印象が薄くなり、そしてなんとなく今日も目の前のことだけに対応して生きていた男に、当時そのままの鮮烈な画像で突如過去が突き付けられたわけです。
特典映像として観せられたのは妻の死の瞬間。それは、自分が妻に手をかける瞬間でもありました。そして、大いなる後悔が男を襲います。男は茫然自失となります。
物語は、1人の視聴者に対して、前後編の2話で構成されています(とりあえず1巻については)。後悔に苛まれる話ばかりではありませんが、「自分の行いは、結局自分に返ってくる」という教訓を語るには、後味の悪い話が多いかもしれません。
辻真先先生の漫画評では、「現時点ではいかんとも評価しづらいが、先が楽しみである」という主旨のことが書かれいます。辻先生のブログだったでしょうか。
この手の作品は、徹頭徹尾淡々とエピソードが連ねられるものと、館そのものの秘密に迫る怒濤のクライマックスを迎えるものとに大きく分けられるように思いますが、おそらく後者であり、ラストまで読んでたら、なんらかの感慨に浸れたんだろうな、とは思います。そうしないと、連載が終われませんからね。例えば、コルゴ13や浮世雲のように。
週刊なり月刊なりの漫画雑誌で、いくつもある作品の中のひとつとして読むには良くても、コミックスでまとめて読むのは、僕にはキツイです。というわけで、1冊だけで失礼させていただきました。
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