漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 ナンでもやります/国友やすゆき 】

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 成績優秀(客観的に)で、性格素直(主観的に)で、メガネ美人(キャラとして)な二之宮祥子は、しかし就活でしくじってばかりでした。
 ある日、大学の就職課に(無断で)張り出された求人に惹かれて行ってみると、試験とは名ばかりの現場労働をさせられ、なしくずしに就職する羽目になります。
「能力第一超スピード出世」と張り紙にあった通り、いきなり「専務」です。なにしろ、社長一人きりの会社、「便利屋」を営む「エブリィ&オール社」ですから。
 ただし、1年間の約束です。就職浪人するくらいなら、就活をしながらこの便利屋で働くと祥子は決めたのです。

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 このエピソードは実は第5話です。
 物語は、社長の松田の楽天家ぶりを横目に、「赤字だ」「家賃も払えない」と、祥子が頭を抱えるシーンから始まります。
 と言っても、全く仕事が無いわけではありません。決して繁盛してるとは言えませんが、仕事は入ってきます。なのにお金が無いのは、ひとえに社長の人柄のせいです。利益第一主義ではないのですね。でも、仕事には一生懸命です。そんなハートフルコメディーが、この作品です。

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 有能美人OLからの依頼は、田舎から父が出てくるので、部屋を掃除して手料理を作って欲しいというものでした。訪ねたそこは、仕事が出来るあまりどんどん任されて、掃除どころか片付けする暇すらないらしく、足の踏み場もないほどゴミだらけで荒れ果てた部屋でした。
 松田が清掃、祥子が料理をそれぞれ仕上げて、顧客は大満足。ボーナスまで貰って引き上げる所に、約束の時間より早くやってきたのは、父親ではなく、恋人でした。
 手料理でもてなすからと招待されていた彼は、少しでも手伝おうと早めにやってきたのです。そのせいで便利屋と鉢合わせ。恋人が嘘をついていたことに憤慨します。
 しかし、松田は気付いていました。彼女が嘘をつき、手抜きをしてエエカッコするために便利屋に依頼したのではないことを。
 松田は、帰ろうとする依頼者の恋人をつかまえて、ゴミを見せます。失敗した料理の山や、捨てるしかないほど焦げついた調理器具。忙しいなりにも努力し、しかし失敗続きだったため、やむを得ず便利屋に頼んだんだと、彼氏に説明します。彼女が彼氏を手料理でもてなしたいという気持ちに嘘は無かったのです。

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 一事が万事この調子です。松田の人の良さが爆発します。
 もう1人、松田は従業員を雇うのですが、人が良すぎて、その従業員に売上を持ち逃げされたりもします。
 でも、その人の良さが解決につながり、持ち逃げした従業員も改心して真面目になり、貴重な戦力として戻ってきます。

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 実は松田は、商売人としては素人ではありませんでした。父親はスーパーを創業しており、その血を受け継いでいるのです。スーパーは兄がつぎ、辣腕をふるって大きなチェーン店へと成長させますが、猛は兄と反目していることもあり、自分は自分で立ち上げた便利屋家業を地道に続けます。

 しかし、悪辣な同業他社が出現、口先だけの営業で、どんどん仕事を奪われていきます。たた、そんな低質なサービスにいつまでも顧客がついてくるはずもなく、そのライバル社は、あわや倒産というところにまで追い込まれます。それを兄に頼んで、おそらく傘下に取り込ませることで、ライバル社を救うように働きかけたりするのです。ああ、どこまでお人好しなのでしょう。

 おかげでライバル社は(兄の経営する)大資本傘下の後ろ楯を得て力をつけ、同業他社である自分はますますやりにくくなるのですが、困り事を見捨てられない男なんでしょうね。
 そういう性格が効を奏し、窮地に追い込まれたときは、地元商店街が一致団結して救ってくれたりもしてくれたんですよね。

 と、いうわけで、兄からの「傘下に入って手を広げないか?」という誘いを断り、代わりに潰れかけた同業他社を紹介するという、究極の人の良さを見せつけて、物語は終了です。

 訳あって幕を引く会社もたくさんあると思いますが、そういう幕引きは別にして、経営不振で潰してしまう、なんてことになったら元も子もありません。かといって、大きく発展させればいいというものでもないと思います。大きく発展させることを否定はしません。そういう大企業も世の中にはなくては困ります。でも、細々と健全経営する会社が長続きしてこそ成り立つものもあるような気がします。

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 この作品はハートフルコメディーですが、「細々と健全経営を続けることの大切さ」を説いたビジネス書でもあるのかもしれませんね。
 なお、その後、祥子が初志貫徹して別の会社に就職した、とかいうことは無さそうです。
 
(120-450)