【 サマーウオーズ/細田守・杉基イクラ 】
映画のコミカライズといいますか、メディアミックスといいますか。
マンガが映画に劣る表現方法だなどとは決して思いませんが、映画のコミカライズとなると、やはり本家の映画とくらべて、迫力というかダイナミックさというか、やはり見比べてみたくなりますね。漫画は自分のペースで読めるのが良いのですが、刻々と経過していく時間を感じさせようとすると、創り手の意図通りに画面が流れる方が、本来の形なのかもしれません。でもそこは、漫画家の力量と、読者の読解力によるのかもしれませんね。
主人公の小磯健二は、女の子どころか人付き合いそのものか苦手。頭はいいのですが、数学オリンピックもあと少しで日本代表を逃すというちょっと残念な人材。
得意の物理を生かして世界的なバーチャル界遊びを構築しているOZのメンテナンスのバイトに明け暮れるのが精一杯の夏休みでした。
ところが、ある日、女子剣道部のマドンナ夏季先輩から、バイトを依頼されます。内容は「一緒に田舎に帰る」こと。これ以外のことは知らされません。
そこで健二は、OZのバイトを、同僚の佐久間に押し付けて、夏季先輩に同行するのですが。
やってきたのは田舎の旧家、とても立派なお屋敷でした。そして、バイトの内容は「私に全て話を合わせる」こと。しかも、旧家のみなさんには、「婚約者」として紹介されました。つまり、ここでは健二は、夏季の婚約者であらねばならない、ということです。
スポーツ万能、容姿端麗、しかも旧家のお嬢様とくれば、嘘から出た真なんてのもあるわけで、悪い話ではないはずですが、一言、突っ込んでおきましょう。「先に言えよ!」
幸い、最初に面会した曾祖母には気に入られるのですが、その上で出した夏季の条件はひどいものでした。
東大生
旧家の出身
アメリカ留学から帰国したばかり。
なるほど、先に手を挙げた佐久間が条件をきいて断るわけです。だから、健二には現地につくまで、このことは隠されていました。
宴席盛り上がるなか、詫助という暗い感じの男が帰宅します。夏季はなついていますが、大おじいちゃんの愛人の子で、うとまれてる様子がうかがえます。夜の庭で武道の稽古をする者がいたり、とにかく曾祖母を頂点とする親戚一同ですから、様々な人が集まっています。
健二が眠ろうとしたときでした。OZから数字の羅列が、送られてきました。どうやら、暗号らしいのですが。
これが流通したところで、なにしろ2056桁。おいそれと暗号がとけるわけがなく、それでシステムに異変がおこるわけがないのですが、健二かひとこと。「それ、僕が、解きました」
それでなにがどうしてそうなるやらわからなかったのですが、OZが乗っ取られてしまったのです。
集合した親戚一同の中に「キングカズマ」と、よばれる凄腕プレーヤーがいたのはラッキーでしたが、バーチャルの世界が、乗っ取られたおかげで、現実世界も大変なことに巻き込まれてしまいます。
OZは遊びの世界ですが、現実世界でも様々なネットワークが遣われています。そのOZの中に最強のAIが投入されてしまったのです。しかも、その当事者が例の愛人の子、侘助。勝手に土地や山を売って資金を作り、AI開発でお金を稼いで売った山や土地を買い戻すつもりだったのですが、そのAIのへいで世の中を混乱の、どん底に落としこんでしまいます。そして、曾祖母に叱責され、家を出て行ってしまうのです。侘助はただ、ラブマシーンというAIをつくり、そこに「知識欲」というものを与えただけではあったのですが・・・。しかし、大金か転がり込んでくる可能性があるため、機能停止をさせようとはしません。
翌朝、曾祖母がなくなりました。センサーのついた携帯電話で医者がモニターしていたのですが、データが送られてこなくなり、手がうてなかったのです。
そして、一同のOZとの戦いが始まりました。OZの中に潜むラブマシーンを敗北させるためです。
正直、ここまでは漫画の方が面白いです。でも、ここまで、なんです。
バーチャル世界にいる巨大なAIと戦い、勝つために、オフコンを用意したりと、まあ色々したあげく、現実世界の人間と、バーチャル世界のAIが、花札(こいこい)で戦うわけですが。
AIは日本の人工衛星「あらわし」はじめ、数億というアカウントを飲み込んでいます。花札の掛けの対象はこのアカウントです。
人間はこの「あらわし」のアカウントを取り戻したい。なぜなら、AIは「あらわし」のアカウント(制御)を握っていて、任意の場所に落とすことができます。そして、原子力発電所かどこか、とにかくそういう場所に落とそうとしています。
そんなことになれば、大災害が起こります。
それを避けるため、つまり、「あらわし」のアカウントを奪取するために、花札で勝負をするわけです。
対戦するのは、夏季です。
最初は勝ち続けます。そして、AIが所持するアカウントをどんどんとるのですが、その中に「あらわし」のアカウントはありません。従って、勝負は続きます。
そして、大勝負に出ます。事実上のほぼオールインを行います。そして、夏季は負けてしまうのです。ほぼオールインの状態での負けですから、もう勝負は続けられません。
その彼女を救ったのが、傍観者たち。アカウントをまだAIに奪われておらず、ただ、ゲームの成り行きをログインして見守っていた人達でした。彼ら彼女らが、自らのアカウントを夏季に提供するのです。
そして、勝負は続行となるのですが、このあたりのハラハラドキドキは、やはり映画が上ですね。演出家が思った通りのスピードで画面が展開していくからです。
それと、残念なのは、ギャンブルの醍醐味が十分表現されていないことでしょう。
この場面では、このカードが出て欲しい。果たして、そのガードが出るのか、出ないのか?
その緊張感たるや、はるか「カイジ」におよびません。
この辺りは、おそらく「映画のコミカライズとして、連載何回に、おさめて下さい」なんてオーダーがあるからなんでしょうけど、最後の勝負はもう少しページがほしかったところですね。
(128-480)