漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 クースー/あおきてつお 】

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 クースー。漢字で書くと、古酒。泡盛、すなわち沖縄の蒸留酒の熟成させたもののことです。
 作品内では、5年以上寝かせたものを古酒と呼んでいるようですが、何年も保存に適した状態でおいておけば良いというものではなく、毎年若干の新酒をブレンドしてこその味わいなのだとか。

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 一方、法律では、全量が3年以上寝かせたものでなくては古酒と名乗ってはいけないようです。
 これでは毎年新酒をブレンドしててはいつまでたっても古酒と名乗れず、作品内で言う古酒が本当の古酒ならではの美味しい古酒の作り方であるなら、法律が現実とかけ離れてしまっていることになります。
 どちらが、美味しい酒を飲むために適切な定義なのか、私にはわかりませんが、伝統的な製法と法律とのギャップ、歩み寄ることはできないものでしょうか。

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 この作品、「クースー」は、15年ぶりに東京から故郷の宮木島(おそらく宮古島をモデルにした架空の島)に戻った二十歳の女の子さくらが、家業であった(現在は廃業している)泡盛作りの蔵を再興しようと奮戦する話が軸になっています。

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 そこに、病気で味覚を失った元杜氏、ホテルのバーでバーテンダーをしてるのに洋酒が全く呑めない秋奈、さくらの祖父母他、色々な人々が登場します。
 さくらの帰郷は母の死がきっかけです。父は行方不明。もはや記憶にも残っていない祖父母を頼ってのことでした。

 酒蔵が廃業していることも、この時点ではさくらは知らなかったのです。
 でも、旨い酒を造ろうとしていた父の意志をついで、酒蔵を復活させ、父が生んだ幻の泡盛(正確には泡盛と焼酎をブレンドした新しい酒)を自らの手でもう一度、と夢を抱くのです。 

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 前途は多難。廃業して荒れた状態の装置を修理したり、取り替えたりするのに、約2500万円が必要ですが、まずその資金がありません。
 問題はもうひとつ。日本酒と異なり、泡盛は原料のタイ米を政府が一括輸入したものを使うので、原料の米を選べない、どこの酒蔵も同じタイ米を使わざるを得ないのです。

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 原料まで遡って厳選し、理想とする味を追い求めるという、一定レベル以上の飲食物を作るための当たり前のことが、そもそもできない、ということなのです。

 結論から言うと、このふたつの問題は解決します。多少ご都合主義ではあるものの、難題を創意工夫努力して、乗り越えていこうとする彼女たちと、その周囲で彼女たちに助力をする人々の姿が、このストーリーのキモとして描かれています。

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