【 風の宿/小山田いく 】
宿は「やどり」と読みます。連載中に「これ、ドラマ化できるだろ?」とか思ったりしてました。
小山田先生は既に故人ですが、もし「この作品を私の最高傑作と評価してくれる読者がいたら、嬉しい」なんて言って下さったりしたら、私も嬉しいですね。
勤務先の院長のやり方が気に入らない鹿間は動物病院を辞職、女房にも逃げられ、娘の諷子を連れて田舎に引っ込み、自ら動物病院を開業します。
そして、同級生といきなり居酒屋のシーンですから、少年誌連載漫画というより、大人向け作品の風情が漂います。
おそらく日常の描写で深い意図はないものと思いますけど、諷子と同年代の読者が読んだとして、「ふうーん、大人ってこうやって旧交を暖めるんだあ」とか感じてくれるのなら、それはそれで少年誌に大人の飲酒シーンが登場することにも意義がありますね。
都会暮らしと母が恋しい諷子は、こんな暮らしは嫌だと心を痛めますが、田舎の風土や人情に癒されて徐々に新しい暮らしにもなじんでゆきます。
一方、いきなりの開業で患畜もなく、昼間からウイスキーを飲んでる鹿間。そこへ担任の先生やクラスメートたちがやってきて「ウイスキー先生」なんてあだ名までつけられて…。
動物にまつわる話ですが、ペットだけでなく、野生動物や畜産動物などの話、田舎暮らしや自然、民話にまつわる話、人情もの、子どもたちの繊細な感情に触れる話など、動物病院物語の範疇を超えて心温まる人間ドラマが展開します。
いま、大人が読んでも、堪能できます。主に一話完結で、重すぎもしない。劇場映画や舞台、テレビドラマなど、様々な原作として秀逸な作品だと思うんですけどね。
地味な作品ではありますが、全8巻と小山田作品としては3番目に長い作品ですから、評価は高かったのではないでしょうか?
(全8巻)
(150-551)