漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 我が名は狼/たがみよしひさ 】

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 長野県の高原にある家族経営のペンションにやってくる若い女性客を、狼(ウルフ)こと犬神内記という居候が、次々コマスお話です。ベッドシーンは再々登場しますが、エロマンガではないので、行為の描写で読者を性的興奮へ導くわけではありません。かといって、シた事実だけが伝わるような描き方でもなく、行為の最中にも普通の会話が続いていたり、思索に耽っていたり、時にそれが哲学的でもあったりするなど、冷静に考えたら現実離れしているものの、作品の流れ的には全く違和感がなく、それがたがみ先生のベッドシーンの特徴でもありますね。
 ペンション「たかなし」のオーナーは、高梨夫妻。娘が3人いて、長女誠は幼子「主税(ちから)」を連れた出戻り、次女静には小林幸男という婚約者がいて「たかなし」のコックをつとめています。三女聖は狼にわざわざ二十歳と名乗っていて、ちょっと気になる様子。ここに狼が加わったのは、主人の高梨と狼の父が旧知で、高校を中退してバイクで日本中をブラブラしてる息子の心配をした狼の父に頼まれたから、ということになっています。

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 狼は喜美という女性と「たかなし」に向かう道中知り合いベッドイン、「たかなし」に着いたらさっそく一人旅の女性客である悦子を抱きます。第1話でこれもんですから、後は推して知るべしな物語展開。
 5人組(カップル2組+女性1人)のようなグループが来れば、プラスワンの女性である円(まどか)をコマします。
 黒いRZ250に乗る智子とはバイク勝負をします。この時、狼はRZ350に乗っていて、「たかなし」にやってきた時に乗っていたバイクとは異なっています。盗まれて分解され部品をとられ、残りは捨てられていたとのこと。それで購入したのが中古のRZ350なわけですが、この元の持ち主が智子の別れたばかりの男だったのです。それで智子はRZ350に乗る男は嫌いだ、などと宣言し、勝負になるわけですが。
 排気量のハンデをなくすため、下り坂での勝負とします。狼は、俺が勝ったらどうしてくれると智子に問い、彼女は「抱かせてあげる、喜んで」と答えます。そして智子も、私が勝ったら? と訊き返します。狼は「抱かせてあげる、喜んで」とボケをかまします。こうしたボケはあちこちに散りばめられています。

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 旅の宿として「たかなし」にやってきて狼の餌食になる女性客のエピソード集として当初は1話完結スタイルで話が展開します。その合間にペンションスタッフたちの話なども挿入され、こういう捉え方をすれば「HOTEL」形式と似てます。但し、HOTELは真面目なホテルマンの話、我が名は狼はスケこましの話、という大きな違いがあります。
 ストーリーが進んでくると、ミステリー調のものも現れます。スキー場に週末ごとに出てくる雪女の正体は? みたいな感じです。雪女はもちろん人間のなせる技ですが、なぜ彼女はそんなことをせねばならなかったか、という謎を狼が解きます。やがて、殺人事件も起こり、やはり狼が探偵役を演じます。後に「Nervous Breakdown」という探偵ものが発表されてますし、たがみ先生はミステリーをやりたかったんでしょうね。でも、ここでは、色んなタイプの話のうちのひとつです。

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 狼の家出の原因となった姉(養女で血は繋がっていない)の水無美(みなみ)とよく似た美代子という女性が、狼に惚れて、近くの喫茶店で住み込みのバイトを始めます。このため、美代子はこの後も作品に登場することになるのですが、こうして物語が進むにつれて、再登場するコマされキャラも現れ、数話にわたる長めのエピソードも展開されるようになってきます。

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 ペンション「たかなし」の改築に際しては、狼の謀で図面が書き換えられ、ペンション内にマジックミラーや抜け穴などが設置されます。
 これらが狼の覗きやスケこましに度々利用されたりしたら、物語もしぼんでしまうし、狼は性根の腐ったヤツ、ということになるのでしょうが、折に触れ「たかなし」の従業員がこれらを利用し、「事件解決」というと大袈裟ですが何らかの役に立ってしまうという展開になるのです。
 男性のゲストキャラも登場します。しかし、まともなのは美代子を連れていった男(その代わりというわけでもありませんが、狼との賭けに負けてバイクを狼に取られます)くらいで、たいていはどす黒く、狼に成敗されたりしています。
 長女の誠と狼ができてしまい、しかし、狼は彼に惚れる聖を決して抱こうとはしません。抱きたい時に抱きたい女を抱きたいように抱くために、抱きたい女を抱かないこともある、という名台詞にてその理由が明かされます。

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 そして、物語はエンディングに向かいます。
 狼は2台のバイクを売り、それでも「足りない」と呟いて金庫漁りまでします。これを黙認する誠。もともと放浪者であった狼が、いつまでも「たかなし」にいるとは思ってなかったようです。「たかなし」を出るためにまとまった金が必要なのだと考えています。だからといってこそ泥のような真似を黙認するのは、誠らしくないように思えたのですが、ここは誠が、「狼はここを出ていくべき」と考えたのだと解釈しておこうと思います。
 しかし、もちろんこれにも、オチがありました。
 狼は「たかなし」を出ていく気などまるでなく、単に新しいバイクが欲しかっただけなのでした。新しいバイクの頭金のための金策だったのです。しかも、ペンションオーナーの名義でローンまで組んでいます。
 こんなことを誠らが許すわけありません。
 それまで居候然としていた狼ですが、この日から従業員として酷使される日々が始まりました。(全3巻、ただし1巻には巻数表示はありません。話数カウントは「獲物○○」)

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