【 居酒屋ぼったくり/秋川滝美・しわすだ 】
とにかく漫画雑誌を買っていませんから、新しい作品にチャレンジするには、書店のコミックスコーナーで、「面白そうかな?」という勘で買うしかありません。
さて、居酒屋ぼったくり。えげつないタイトルですが、表紙を見る限り、ぼったくり店を主軸にしたバイオレンスものとは思えません。
裏カバーには「東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。なんとも物騒な暖簾がかかるその店では、店を営む姉妹と常連の間で日々、旨い酒と美味しい料理、誰かの困りごとが話題にのぼる。そして、悩みを抱えて暖簾をくぐった人は、美味しいものと義理人情に触れ、知らず知らずのうちに身も心も癒されてゆく…。
と、紹介文があります。
また、第一話のラストには、店の名の由来が書かれています。
「誰でも買えるような酒やどこの家庭でも出てくるような料理で、金をとるようなうちの店はそれだけでぼったくりだ。たとえありきたりの料理であっても一つ一つ大事に心を込めてつくる。口に入れた人が思わず笑みを浮かべるような一皿、それができて初めて払った金が惜しくないと客が思ってくれるようになる。俺はまだそこまでじゃない。だから、この店の名は「ぼったくり」でいいんだ。」
現在、店の切り盛りをしている姉妹の父の言葉です。
作風は全く違いますが、「深夜食堂」のシチュエーションの異なるバージョンみたいな感じかなとも思います。
もし、「深夜食堂」と交互に読んだら、交互に通いたい店ですね。
ついでに言うなら、山口よしのぶ先生の「ダブル」という作品に出てくる飲み屋にも通いたいし、料理のグレードはぐんと上がりますが、「酒は辛口、肴は下ネタ」の「男道」という店の常連にもなりたいですね。
女店主美音のおせっかいぶりにも、目を見張るものがあります。客が、子供の夏休みの自由研究に困っていると、おしげもなく「ぼったくり」のレシピをていきょうします。
空腹状態でいきなりお酒をカブ呑みした客には、「そんな飲み方は身体に悪いから、先に言ってください」と、説教します。
捨て猫を客が拾ってきたときは、「飲食店なのではいってもらえない」ため、「外のみ」を提案します。
そこにもこだわりがあって、店内調理のものを外に運ぶのではなく、七輪と炭で鮎を焼いたりするんです。
レシピも簡単なものが多く、キャベツ、キュウリ、ニンジン、プロセスチーズを千切りにして焼き海苔でまいただけのサラダとか、鮭・梅・海苔を使った「全部載せ茶漬け」なんてのも、出てきます。
もちろん、そうそう簡単にはできませんよ、という料理も出てきて客を驚かせ、喜ばせます。が、そうそう簡単にはできないレシピをここで紹介しても意味がないので、書きませんが。
お酒の知識と選択眼もたいしたものです。「夏子の酒」のように醸造における苦労話や蘊蓄は出てきませんが、ワインの鑑評を評論家がするような表現力です。
グルメに片寄りすぎない人情漫画、人情に片寄りすぎないグルメ漫画。
それが、「居酒屋ぼったくり」です。
ランチョン・ミートが通称の「ポーク」という名前で出てきて、それでつくるゴーヤチャンプルーとか、専門店で食べるような餃子を家庭で焼くコツを伝授するなども、僕がこの作品を好きなゆえんです。
漫画用の原作があるのではなく、人気小説のコミカライズです。