【 このお姉さんはフィクションです!?/むつきつとむ 】
1巻の帯を見れば、どういうお話かわかります。
いわく「職無し・家無し・スキル無し(あるのは胸だけ)。出来るオンナを装う28際独身・川瀬成海 残念な美女である」
残念な美女である成海は、人気漫画家「吉川蛍子」の所で、住み込みのアシスタントをすることになっていました。漫画に関しては素人ですが、成海と旧知の間柄だった担当編集者の浩子は、蛍子を母に持つ高校生の息子、吉川隼(主人公)の負担を少しでも軽くしてあげようと考えたのです。母が作画に入ると隼は、アシスタントも家事も一手に引き受けています。だから、クラブ活動には入っていません。
ところが成海は、浩子との待ち合わせの日時を間違え、おまけに携帯の番号を変えていたため浩子と連絡がとれず、吉川家には辿り着けません。それどころか、やけ酒でもあおったのでしょう、川辺で寝てしまっていました。酔うと脱ぐ癖があり、シャツの前ボタン全開、下着丸出しの状態。まるでレイプされ気を失って放置されたかのような姿です。
それを隼に発見されます。ちょうど締切ギリギリの原稿を真夜中に終え、編集の浩子をタクシーで送り出し、寝込んだ母が起きたときに飢えないよう何か食べ物をコンビニへ自転車で買いに行く途中でした。
(絵は隼の同級生、大貫瑠璃子)
こうして無事保護された成海は、家事手伝い&漫画アシスタント見習(消ゴムかけも、枠線引きやベタ塗りも経験ない初心者)として働き始めます。
何も出来ない残念なお姉さんとして描かれますが、勉強はできます。後に、隼の同級生に勉強を教えたりもしています(隼は勉強もでき、なにかというと「助けてくれー」と、同級生がおしかけてくるので、そのお手伝いをしています)。料理もできます。成海は卒業後もそこそこの企業でOLをしていたのですが、ある理由(浩子も知らない)で突然仕事を辞めてしまい、無職になったところへ浩子が声をかけたようです。
浩子は、勉強も家事も作画アシスタントもでき、面倒見が良くて同級生から人望もある隼を小さい頃から知っていて、結婚するまでは週一でご飯を作りに来てくれたりもしていました。これも隼の負担を減らすためです。そんな浩子に隼はほのかに憧れにも似た恋心を抱いていました。
さて、肝心の成海ですが、隼に教わるも漫画の仕事が何も出来ず落ち込んでるのを、先生に慰められ、お酒を勧められます。以前、やけ酒あおって半裸で河原で寝てたのは、この日の伏線でもありました。酒癖が悪いのです。酔って服を脱ぎつつ隼の部屋へ行き、布団に潜り込んでしまいます。本人はそれで熟睡したようですが、隼はろくに寝れません。
翌朝、隼から大いに叱られ、「禁酒」を言い渡されます。
隼が登校後、再び漫画の仕事のお手伝いを始めますが、資料の図書の中にエロモロな写真集を見つけ、先生から「成海ちゃんの歳なら平気よね」と言われて狼狽しすぎ、処女が露呈してしまいます。
(絵は隼の同級生、小宮山華)
その後、弁当(成海が作った)を忘れて学校へ行った隼に、その弁当を届けに行きます。仕事で凹まされてばかりの隼に、恩着せがましくしてやろうと思っていたのに、せっかく作ってくれたのを忘れて学校に行ってしまったことを素直に謝る隼に拍子抜けするとともに、隼の人柄の良さにも気づき始めます。
にもかかわらず、同級生の華に誘われるままに、小宮山華と大貫瑠璃子、そして隼の4人で食事をするのですが、その場をしっちゃかめっちゃかにしてしまい、ずっと隼が好きで、なついてもいる瑠璃子に大きな誤解を与え、また夜に隼から叱られます。
瑠璃子は人見知りするたちで、中学から一緒の隼と華ぐらいしか、気軽におしゃべりができません。
物語は主に隼の学校生活の流れに従って進んでいきます。
まもなく夏休みという時期、プールの授業が始まり、女子は水泳、男子は婚活に失敗した体育教師の八つ当たりで炎天下を延々と校庭を走らされます。
それで倒れてしまった隼の友人Aを、隼は友人Bと2人で両脇を抱えて支えながら、先生に抗議します。
よせばいいのに学校へ偵察に来てた成海、隼のことを「基本的には真面目」と、評します。瑠璃子や華とも雑談していて、「少し年上好き」との情報も得ます。この場面では具体的に名前は出ません。しかし、大方の読者は、浩子さん本人のことか、浩子さんに影響を受けてそうなったと感じるはずです。でも、成海は気がつきません。それどころか、自分も隼の対象内だと思い込んだりします。
体育教師とも会話します。成海の美人さに目が眩んだ体育教師は、おべんちゃらも含めて、姉を標榜する成海に、隼のことを「よくできた生徒」と伝え、成海は鵜呑みにします。
ところで、さきほど友人ABと書きました。度々登場するのですが、名前がつけられてないようです。登場人物紹介でも友人たち、としか出てきません。なので、ここでは友人ABとします。
さて、下校する隼と一緒に成海は帰宅、その途中で浩子に会います。3人で家に戻ると、先生は知らないオッサンといちゃいちゃの真っ最中。
ショックを受ける成海に、あれが父と言う隼。仕事の都合でなかなか帰宅できないので、たまに帰宅するとこうなる、とのこと。
打ち合わせを諦めて帰ろうとする浩子と隼のやりとりを見て、ようやく成海は「少し年上」が浩子のことだと気がつきます。しかし、彼女は人妻。隼が人の道をはずさないように、私が正しく導かねばならないと、余計なことを思い巡らせます。
(絵が描ける本当のアシスタント亜季。後に加わります)
「私のどこから酒の匂いがする!?」と顔を近づける成海。隼は誤解だと認識するものの、バランスを崩してそのまま転倒。あろうことか成海の胸に手を付いて、柔らかさと感動のあまり、そのまま揉みしだいてしまいます。
思わず「始めてなの、無理」と口走り、泡を吹いてしまう成海。こうして隼にはひた隠しにしていた処女がバレてしまい、部屋にこもってしまいます。
隼は成海の部屋へ胸を揉んだことを謝りにいきます。成海が本当にショックだったのは、処女がバレたことだとそこで知り、成海は恥ずかしさのあまり、家出を決行。
本当はもっとあとで出てくるエピソードなんですが、先にバラすと、前職を辞めたのも後輩OLから処女をバカにされたのが原因で、コンプレックスになっていたからです。
家出は隼が自転車で追いかけて引き留めて未遂となりました。その場で成海はいろんなことを隼に吐き出し、2人の距離が少しだけ近くなります。
そして、夏休み。仕事が一段落したら先生と成海はハワイへ行く予定をしていました。が、パスポートが切れてて空港でUターン。
失意の底にある成海を、隼は同級生との旅行に誘います。同行者は瑠璃子と華。華の叔父さんが経営する旅館にタダで泊めてもらえるのですが、全員同室で、雑魚寝です。
間違いが起こらぬよう、自分が保護者がわりにならねばと成海は張り切ります。過ちは夜中に起こります。こっそり酒を呑もうとした華に気づいた成海、注意をするはずが自分も呑んでしまい、ランチキ騒ぎを引き起こしてしまいます。
しかも帰宅後、仕事中に隼とイケナイことをしている姿を妄想してしまい、業務不能に陥って自己嫌悪。そこへ、新しいアシスタントが来ると聞き、自分はクビになると勝手に思い込んで、「やめませんからね!」と、宣言。そんなつもりは吉川親子には毛頭ないとあとで知り、また恥をかきます。
新アシスタントの亜季がやってきたのは、例のごとく成海が何やらやらかしてバタバタしてるとき。
「変な人で驚いたでしょ?」という隼に、自分の方がもっと変なので問題ないと答える亜季。
いったい何がどう変なのか?
それはさておき、夏休みもそろそろ終わろうかという頃、友人ABが隼の家にやってきます。目的は、宿題。家に上がると既に瑠璃子と華もいたりします。
そして夏の終わりには、隼が成海を花火見物デートに誘います。父が帰宅したため、両親が水入らずになれるよう気を使ったのでした。
花火大会の後、居酒屋へ入る2人。隼は未成年なので飲酒しません。が、成海がおかわりをしたため、「これ以上ダメ」と取り上げ、飲み干してしまいます。
そんなこんなで最終電車に乗れず、2人はラブホテルで一夜を共にしますが、もとはと言えば隼が気分を悪くして駆け込んだだけなので、なにもありません。
その後、浩子の妊娠騒動で、隼は一時的に落ち込みます。彼女は既婚者ですし、今さらどうしようもないのですが、隼にしてみれば、気持ちを伝えそびれたままになっていたことが、ひっかかりとなって甦ってきたのでしょう。
浩子の妊娠は、残念なお姉さんのまたもや早合点だったのですが、隼もこれで気持ちをふっきることができたのでしょう。
(小宮山華)
そうして季節は巡り、文化祭やクリスマス、修学旅行など、学校行事や季節のイベントごとにひと騒動おこるのですが、どうしてこうも成海が絡んでくるんでしょうね。
成海がかつての職場の後輩だった男性社員に言い寄られたり、レズビアンが発覚した亜季が、その男性社員を「敵」呼ばわりしたりと、年齢の異なる登場人物それぞれに、それぞれの年齢における青春恋愛ドラマが展開します。
状況に変化がおとずれるのは、成海のお見合いからでしょうか。
父が足をくじいて店に立てないから帰ってきてくれと実家(食堂を経営してる)から成海に連絡があります。ちょうど隼は冬休み、先生も仕事を終えたばかりで、近くには温泉もあるということで、隼と先生も一緒に行くことになりました。
これ以前に成海の両親が吉川家を訪ねてきたときは関西弁をしゃべっているので、温泉のモデルは有馬か城崎か、とか思ったのですが、後に九州(別府?)だとわかります。多分設定ミスなので、ここはつっこんではいけない所でしょう。
とはいえ、帰路は新幹線(往路は飛行機)で、「次は新大阪」とあることから新幹線のシーンは新神戸ー新大阪間と思われ、乗っているのはおそらく15号車が13号車。号車表示の上部がコマから切れてるので、特定できません。でも、九州新幹線直通車両でないのはわかります。これで「城崎説」(新大阪または京都から新幹線。新神戸ー新大阪間は新幹線に乗らない)は消えますが、「有馬説」(新神戸から新幹線はありえる)は残りますし、博多で乗り換えたとすれば、九州はもちろんアリ。多分この時点で、「以前関西弁を喋ってた」というのは、無かったことになってるのでしょう。
それはともかく、成海が実家に戻ってみれば、成海の父は一ノ瀬という弟子(店員)をとっており、無理に帰省させなくてもお店は回っていたことが判明します。しかも、両親の様子がおかしい。そして、隼は「お見合いでは?」と、気づきます。
(成海の母)
成海はお見合いから逃げるため、店の手伝いを隼にかわってもらい、自分は「先生を観光案内する」と、出かけてしまいます。
隼の働きぶりは飲食店未経験者でありながらもたいしたもので、やはり何でも器用にこなす子なのです。
そして隼は、一ノ瀬に見初められてしまいます。
亜季がレズビアンかと思えば今度はゲイ!
で、いよいよ物語はグランドフィナーレ。
瑠璃子が思わず口走った「私が好きなのは隼くん」に返答できずにいる隼に、なにも言わないのはNOと同じ、と成海が言います。
なんでも器用にこなす隼だけど、恋愛だけは不器用なのです。
そして、隼は答えを出して、瑠璃子に伝えます。
成海の実家では、一ノ瀬が成海の妹である美空(省略してますが、既に何度か登場済み)を、妊娠させてしまいます。
ん? ゲイではなく、バイだったのか?
ともあれ2人は父の怒りをかい、追い出されてしまいます。おのずのお店は人手不足に。
しかも、先の捻挫は眩暈が原因でよろけたためと母から知らされ、お店のために無理をさせられない身体なのだと、成海を呼び戻そうとします。
実家に帰るより仕方ないと判断して、成海は吉川家での仕事を辞します。
ところが、あっという間に成海は辞めたはずの家事手伝い兼アシスタント見習いに出戻ってきてしまいました。
父が一ノ瀬と美空を認め、2人は再び店で働くようになり、成海の居場所がなくなってしまったのだとか。
物事はすべておさまるところにおさまり、みんなちょっとずつ前進して、物語は完結です。
ところで、いくら考えてもわからないのが、この漫画のタイトル。「このお姉さんはフィクションです」に込められた意味合いというか、作者のメッセージです。
超レアな例外(「鉄子の旅」や「阿呆列車」など)はあれどもほとんどの漫画はフィクションです。
それをわざわざタイトルで「フィクションです」と断る限りは何かそこに込められてるのでは? と思うんですけどね。(全8巻)
(199-767)