【 二度目の人生アニメーター ②/宮尾岳 】
多田アユムは、娘の結婚式に出るはずでした。が、過去にタイムスリップしてしまい、しかも、若かりし頃の自分自身として生きていくことになります。
過去の世界で若返ったアユムには、すべきことがふたつあります。
後に妻となる女性と歴史の通りに出会い、結婚すること(でないと、娘が生まれません)。そして、高校の同級生である金野ハジメをアニメーションのメカ作監にすることです。ハジメが作品を世に送り出さなければ、娘と婿が出会うきっかけもなくなってしまうからです。
ハジメと同級生のヨウコは、先輩に厳しい指導を受けながら精進する日々。アユムはスタジオタクトで製作進行をつとめながら、大学にも通います。
しびれを切らしたアユムは、ハジメがノートに描いたダンガムの動画(パラパラマンガ)を、ダンガムの製作をしているアニメスタジオに持ち込みます。その結果、ダンガムの監督である富田から、アニメ業界では後輩にあたるスタジオタクトの大迫に、ハジメを譲ってくれないかと連絡があります。
ハジメはメカ以外は何も描けない、スタジオタクトで学ばねばならないことはまだまだたくさんあると、それを断ります。結局、ノートを持ち込むという謀は、ここではアユムの空回りに終わってしまったことになります。
しかもダンガムは、4クール(1年)の予定だったにも関わらず、3クールで打ち切りが決定してしまいました。しかも、どうやらダンプラなるものもこの世には存在しないようです。アユムは、歴史が変わってしまったのではないかと考えます。自分の知る未来へ歴史を導こうとしたことで、逆に過去を歪めてしまったのでは? と。
しかし、そうではありませんでした。テレビアニメは打ち切りが決まりましたが、ダンガムの監督の富田は、次のステップを見据えていて、その協力依頼にスタジオタクトにやってきました。
お目当ては、タクトの名動画チェッカー前原ジュンです。富田監督は、前原がロボットアニメを嫌っていることを知っています。しかし、彼女の持つ高い技術を必要としていたのです。もちろん彼女は頭から断りますが、ハジメとダンガムの接点の芽が出たこのチャンスをアユムが逃すわけありません。半ば挑発的な言葉で前原をその気にさせます。
スタジオタクトで製作の指揮を執る大迫は、協力依頼にたいして条件を出します。ひとつは、テレビ版ダンガムを最終回までに一度、半パートでいいからスタジオタクトが製作すること、そして、その原画にド新人の金野ハジメを起用するのを認めること、です。
しかしそれは、タクトの部内でも異例中の異例。まだハジメには、動画マンが割れる原画を描けるような実力はありません。「割る」とは、アニメの絵が動いて見えるように、原画と原画をつなぐ何枚かの絵を描き、「動く」アニメーションにしていくことです。
そこで大迫は、今回は特別の手法をとると宣言します。その手法に、スタッフは驚きを隠せません。
作品内では、大迫がなぜ、ド新人のハジメを無茶をしてまで起用することにこだわったのか、示されていません。ここは読者がそれぞれに解釈するしかないのですが、メカが好きで、ダンガムが好きで、ド新人ながらメカを丁寧に描写するハジメにチャンスを与えることと、どの程度の結果を出してくるかを見極めようとした、というところではないかと思います。
異例の製作手法に、ハジメは張り切るのですが、それは時として、演出の意図とは違ったものにすらなり、現場にも少なからず影響を与えてしまうのですが…。
アユム、ハジメ、ヨウコの同期入社組は、川辺で夕日を眺めながら感慨に耽ります。テレビアニメダンガムは、一旦終了します。
絵的には静かな雰囲気ですが、この頃のアニメにかけるクリエーター達の熱量はこんなものではなく、爆発前の一瞬の静寂のように私には思えました。
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