【 うごかし屋/芳崎せいむ 】
小さな引っ越し屋さんの物語です。
でも、帯びにあるように、引っ越し屋ではなく、うごかし屋と呼んで下さい、とあります。
物を移動すのではなく、心を動かす、というコンセプトのようです。
そして、この引っ越し屋から提供されるダンボールには七色の色彩が施されており、それぞれに意味がもたされています。
浅黄色は食器、珊瑚色は洋服、鳥の子色は本、などというように。
そして、山吹色の箱には秘密が詰められます。うごかし屋は何があってもその中身は見聞せず、何事も起こらないように最新の注意を持って運びます。
決して引っ越しの技術やらなんやらを披露するお仕事マンガではありません。あくまで人間ドラマ。
時間との厳しいたたかいもあります。わずかな揺れが許されない仕事もあります。こんな場所を通れるもんか、なんて依頼も引き受けたりもします。
社長は2代目で、初代の突然死により家業を引き継がざるを得なかった、という事情もあるのでしょう。少しばかり頼りなく見え、ボーッとしている時などもあるのですが、本当は深く物事を洞察する力のある人です。
少数精鋭の社員が社長を全面的に信頼しているのも、大仕事のときには社長の一声で集まってくれる助っ人がいるのも、その人柄によるものです。
まあ、実際にこんな引っ越し屋があったらウザくてしょうがないでしょうね。荷物をきちんと運んでくれさへすればそれでいい、というのが現実でありましょう。
ですから、物語の中の引っ越し屋さんには、うざすぎるくらいおせっかいな「うごかし屋」がいてもいいでしょう。
当初、全3巻とご紹介していたのですが、芳崎先生ご本人から「全4巻です」とご指摘をいただきました。大変申し訳ありませんでした。
(テレキネシスや金魚屋も本当に全巻持ってるのか心配になってきました)
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さて、4巻です。
鉄の読書家っぷりは相変わらずすごいですし、それ故に過去の因縁を解き明かしたりもします。
怪力女子高生、真朱(まほそ)の活躍も見れるし、大きなうごかしのために、大量の助っ人が動員されるシーンも僕は好きなんです。
ゲストキャラではありますが、かつてステージで華やかなショーに出演していた女の子が、老人として登場します。この人物描写がまたよくて、「かつての美少女」を彷彿とさせる絵なんですよね。
ストーリーとしては、過去のお話などもハサミながらの、今度こそ本当の最終巻です。
さて、雑談です。
芳崎先生の作品との出会いは「金魚屋古書店出納帳」でした。
本当にたまたま掲載誌「アワーズライト」なる、見たことも聞いたこともない漫画雑誌を見つけ、なかなか肌に会うので、「毎月、買おう」と決意したのですが、わずか4ヶ月で休刊。
掲載作品の中で「特にお気に入り」だった4作のうち、実に3作までが移籍して完結しました。なかなかこれも珍しい。
ひとつは「エビアンワンダー」で、ゼロサムに移籍、完結。
「恋愛ディストーション」は、色々渡り歩いて、サンデーGXで完結。
残念ながら「紺碧の國」は、移籍することなくそのまま終了。
そして「金魚屋古書店」は、IKKIに移籍、完結。
アワーズライト誌は、ディープな感じで読者を選ぶよなとは感じてましたが、IKKIもそうですし、ディープさがゆるやかとはいえ、サンデーGXも傾向は似てると思います。
ともあれ、金魚屋をご縁に、読者をさせていただいております。
金魚屋については、また、いずれ。
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