漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 オマージュ/矢野健太郎 】

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 矢野先生の短編集です。「4sprits+2」に掲載された作品を中心に構成しているようです。その場合は1作品が50ページほどになるので、短編とはいえ、読みごたえがあります。

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 未夏は極端な方向音痴です。クラスメイトの弥生が迎えに来ないと、学校へもまともに辿り着けません。昔はこんなに酷くなかったのですが、幼馴染みの葉クンがある日ふと消えてから、方向音痴の症状が激しくなったようです。
 さて、その未夏、いつものように道に迷っているうちに葉に良く似た人を見つけてしまいます。何度かそんなことがあるうち、「良く似た」ではなく、本人だと確信するようになります。
 さて、その未夏、いつものように道に迷っているうちに葉に良く似た人を見つけてしまいます。何度かそんなことがあるうち、「良く似た」ではなく、本人だと確信するようになります。
 そしてついに未夏は、葉と言葉を交わすことができました。葉によると、葉が居るのはこの世のどことも繋がっている歪んだ空間。未夏はそれを関知して、道に迷ったり、葉の姿を見かけたりしたのだそう。そして葉は、長くその空間に居すぎたので元に戻れない。もともと自分はここが居場所。未夏はその歪んだ空間を関知する能力がもう消えかかっている。
 葉の家を訪ねた未夏は、葉の母から、この家系は昔から神隠しにあうことが多かったのだとききます。家族も諦めていたようです。
 その日を境に、未夏の方向音痴はなりをひそめます。
 これが「日常SF」をテーマにした「夕暮れの向こうに」です。4SPIRTS+2は、漫画家4人による競作集で、毎回テーマが設定されてるのです。

 「スポーツ」をテーマにした回では、悩みに悩んだ挙げ句、「モータースポーツ」ということで、カーレースが取り上げられます。たった50ページなのですが、色んな要素が詰まっていて、これが面白いのです。
 事故を起こしてドライバーをクビになったアレックに、別のチームからF1をやらないかという話が来ます。そして、テストを受けるのですが、与えられた車はまともに走りません。フラフラと不安定なのです。しかし、安定性が悪いということは、それだけ曲がるということ。この特性にすぐ気づいたアレックは、車を自在に走らせ始めます。アレックのための調整がなされていたのです。

 その他、どんでん返しで「ウワッ!」と言わされるSFファンタジーや、丁度ホーキング博士の本がベストセラーになって宇宙論ブームだったとかで(知らなかった)、宇宙創生のも収録されてます。
 クエーサーとかブラックホールとかだけでなく、宇宙の曲率とか「ひも」とかも出てきますから、ちょっと知識がいるかも。知識といっても、素人向けの宇宙とかの本でまかなえる範囲ですが、知らないとまさしく「何のことやら?」です。だからといって、ストーリーは十分楽しめますけどね。お伽噺的な感じです。

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 2巻には、初出が4SPIRITS+2以外の作品が中心の収録です。

 この中では、恋愛テイストの「ベッドタウンストーリー」が特にいいですね。初体験をもくろむカップルが、なかなかそこへ辿り着けないエピソードです。
 家族が外泊するから今夜は俺一人と言って誘ったはずが、突然妹が帰宅します。
「法事じゃなかったのか?」
「あたしもお兄ちゃんと一緒で明日学校なんだから、泊まってこれるわけないでしょ」
 おお! 見事な設定です。

 さっきまで誰かがシテた所で初体験なんかイヤという彼女のために、シティーホテルのスイートルームを奮発しようとした彼氏、しかし所持金が足りなくて無理でした。ならばとバイトしてお金をためて、さあいよいよ、というところで、スリに合います。
 バイトでためたお金も、今夜こそという意気込みも全て消え去り、落ち込む彼氏。そこへ彼女が救いの手を差し出します。
「ここでいいよ」と、ラブホテルに彼女から誘うのです。彼氏の頑張りを認めてくれたんですね。

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 さらに、収録作品には、デビュー作でもある「強化戦士アームピット」というのがあります。マッドサイエンティスト父を持つ高校生のひろしが、父の作った強化服を着せられて正義の戦士になるというギャグSFです。デビュー作から矢野ワールド全開してると私は思います。そして、希にふわっと漂う永井豪テイスト、、、とか書くと、失礼に値してしまいますかね。だとしたら、申し訳ありません。あくまで個人の感想です。
 そして、その事実上の続編となる「フライング暁姫」も、始めて単行本に収録とのことです。これがまたよく練られた作品で、暁姫(陸上部所属)のフライング癖が、アームピットの世界観とガッチリ絡み合う妙。「ライナーノート」さえ読まなければ、ですけどね。どうも実際は練られてなかったようです。
 ところで、暁姫には、「強化外骨格」という用語が登場します。「覚悟のススメ」のオリジナル用語かと思ってたんですが、どうもそうではなく、そこかしこで使われてるフレーズのようです。
 それはそれとして、ロケットパンチは明らかにマジンガーZからですよね?
 それから、「エスパーでもないくせに紙切りギザギザ頭」というのは、超人ロックでしょう。
 こういうのが散りばめられてるときって他にも色々あるはずなんですよね。僕が知らないだけで。

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 2巻が発行された時点では、3巻に続くようなあとがきでしたが、残念ながらこれで打ち止め。4SPRITSも全て持ってるわけではありませんし、3巻が発行されて、全部収録されたりしたら、良かったんですけどね。

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