【 HOTEL/石ノ森章太郎 】
元々、全巻揃えるつもりもなかったのですが、TVドラマにもなりましたし、原作がどういう感じで描かれているのか興味を持ち、何冊かは読んでみようという気持ちになったのです。
古書で入手したものと、新刊とで、本人によるもの5冊(1、6、8、11、21巻)と、故人となられたあとで石森プロダクションとして描かれたものが1冊(1巻)あります。
商売なんでもそうですが、収入を得るためには、経費が必要です。経費を上回る収入がなければ赤字、あれば黒字です。この境目を、採算分岐点といいますね。
ホテルの場合、採算分岐点が高いのですが、いったんこれを越えるとものすごい収入になります。
採算分岐点が高いのは、設備投資に相当の費用が事前に必要だからです。でも、採算分岐点をいったん越えたら、一人のお客にかかる経費なんて屁みたいなもんになります。だって、水光熱費に消耗品、リネン等の洗濯の費用くらいですからね。
ただしこれは、一定期間を通したトータルの話ではなく、毎日の勝負になります。売れ残りを翌日半額で、みたいなことができないからです。
で、1巻のわりと早い場所におさめられているような「オーバーブッキング」のエピソードが生まれるわけです。
ノーショー(無連絡キャンセル)も含めて当日キャンセル(急病や不幸事などもありますからね)を見越して多目に予約をとり、本当にオーバーブッキングをしてしまったら同クラスのホテルに「回し」を入れる。回された方も、本当に満室なら断ればいいし、空室があればより満室に近くなって、助かるわけです。
「ホテル」本作品でのオーバーブッキング騒ぎは、既に107%の予約率であるにも関わらず、他からの回しを受け入れたこと、その根本には「仮予約のまま連絡がとれなくなっていた団体客があった」ことが、原因です。
当時と現在では、「ネット予約」の存在や、その「比較サイト」の登場などホテルを取り巻く環境は大きく変わってきていますが、団体客を旅行代理店に依存してる体質や、「仮予約」という意味不明な言葉の日常化(仮だろうと何だろうと部屋おさえをしてることには変わりなく、他の予約を受けられない)など、ホテル業界の体質はあまり変わってないようですね。
いずれにしても、「満室」で希望する日に希望のエリアで宿泊できないお客様がいるわけですから、業界全体でダブつき気味のキャパを用意して、混雑が集中してしまったホテルにスタッフを「回す」などの、根本的な発想転換が必要でしょう。
夏は山小屋、冬はスキー宿を、それぞれ同じ従業員でまわしてる宿泊施設があるとか、テナントで入ってるレストランの料理人なんかは、実際に回しが行われてるとか、きいたことがあります。
ホテルならではの話もあれば、たまたま舞台がホテルではあるものの、いわゆるヒューマンドラマの範疇の話の両方が混在しています。
ただ、色んな人が色んな事情を抱えてやってくる場として、ホテルという舞台は最適な場のひとつですし、ゴルゴ13ほど読み手を選びませんから、ちょっとした待ち時間のある場所なんかに置いてあるといいですね。
1巻の発行日は、1980年代なのですが、作品が色褪せてないのもいいです。もちろん、世相は当時を反映してますから、そういう古さはありますけど、「今時それはないでしょ?」というのがないんです。
各回のテーマをできるだけ普遍的なものにしようという思惑があったのか、自然とそうなったのか、そのへんはわかりませんが。
全巻揃ってるわけではありませんが、どこかに直し込んでおくのではなく、そのへんに放り出しといて、気まぐれにページをめくって気分転換するのには、とても良いなあと感じました。
表紙をたくさんのせても代わり映えしないので、各シリーズからひとつずつだけ、掲載してみました。
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(171-641)