【 気分はアジアめし/深谷陽 】
不運続きのコージ。2か月前に勤め先が潰れて無職になり、先月には彼女にふられ、いいこと無しです。そのコージは、1人の女の子がガラの悪い男二人組に絡まれている所に出くわします。基本、ビビりなのだけれど、「おーい、ノリコ、何やってんだ?」と、さも知り合いのように声をかけて近寄り、耳元で「逃げて」と囁きます。自分は不運続きなのに、絡まれてる女の子に手を差しのべるなんて、基本、いい人なんでしょうね。
さらに男どもの肩を掴み、彼女が逃げる時間を作ります。
その後、ビシっとそいつらをやっつける……のならカッコいいのですが、自らも、もちろん逃げます。当然、邪魔された男どもは追いかけてきます。2対1の上、ガラの悪い風体ですから、喧嘩にも自信があるに違いありません。
逃げ切れないとふんだのか、コージは道沿いの適当な店に飛び込みます。そこは、一軒のタイ料理屋。この店に逃げ込んだのは偶然ですが、追ってきたガラの悪いお兄さんたちは、「あ、ここ」「やべ」と、それ以上追うのをやめてしまいました。
やたらと露出の多いウエイトレスさんが注文を取りに来ます。食欲などありませんが、とりあえず一番上に載っているメニューを注文。食欲なんかないけど、出されたそれを一口。
その美味しさにコージは衝撃を受けます。食欲なんかないんだけどと考えてたのが嘘のように、あっという間に完食。そして、コージは、求人の張り紙に気づきます。こんな美味いものを出す店で働けるのなら……。心が動きます。2か月前から無職であると読者にも示されてますから、読んでる僕も「お! いいじゃないか!」と思わされたりするわけです。
露出の多いウエイトレスに働きたいことを伝えると、店長が出てきました。スキンヘッドのコワモテの男。コージが怯む暇も、考え直す隙も与えず、スキンヘッドの怖そうな店長はひとこと「明日から、来い」。これで採用が決まってしまいます。
食事を終えて店を出ると、さっきのガラの悪いお兄さんが、仲間を引き連れてまちぶせしていました。恐怖にふるえるコージ。
そこへ店長が顔を出し、「ウチの若いのに、何か用か?」と一言。その途端に、柄の悪い連中は逃げ去ります。
店長は、何者?
こんな店で働いて、大丈夫なのか? 大きな不安を抱くコージ。
不安は的中。翌日、出勤したら、顔面流血男が、両サイドを2人の男に抱えられながら店から出てくる所でした。
物語はその店に客としてやってくる人々の悲喜こもごもなエピソード集です。でも、店に来るのは客だけではありません。
ワケ有っぽい連中がやたらと出入りしています。
なんだかよくわからないものを引き取りに行かされたり、店がぐちゃぐちゃに荒らされてたり、店長が殴り倒されていたり。
そして、給料は桁がひとつ違うのではないかと思える法外な額。怪しさがどんどん増してきます。
店長は何者? 訊く相手によって、答えは異なります。「元プロボクサー」「紫の死神と呼ばれた傭兵」「伝説の武闘派ヤクザ」
荒唐無稽なきらいはあるものの、とにかく面白い!
元は「スパイシーカフェガール」と「スパイスビーム」という2つの作品で、一部をカットしてコンビニ版として1冊にまとめられ、「気分はアジアめし」というタイトルのひとつの作品として発行されたとのこと。なので、舞台と店長は同じでも、その他の登場人物が前半と後半でスッポリ別れます。
どうせなら、一部作品をカットせずに、全部収録して欲しかったなあ。全部のっけたからといって、100円も高くはならんでしょう?
店長の正体をキチンと説明してほしいとは思わないし、それはむしろ無いままでいいけど、もっと読みたい作品です。
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