【 CAPETA カペタ/曽田正人 】
カペタ。これは主人公の名前、かっぺいた、から来ています。まあ、ニックネームですね。
4輪レースのマンガです。
勝った負けた、てな話だけでなく、主人公を取り巻く人々それぞれの生き様にも触れ、またレースを続けることの資金面での困難さなども描かれており、物語としては非常に面白いです。
負けることももちろんありますが、基本的には勝ち上がっていくストーリーなので、レーシングドライバーとしての才能や感性、そして努力や精神力をきちんと描かないと、単なるご都合主義の物語になってしまいます。この作品の評価が高い(と、私は思う)のは、そういうところがキチンとしてるからだと思います。
カートレースから始まって、ステップアップしていく姿が描かれます。
だから、読者も思わずカペタを応援したくなってしまうのです。
カペタだけでなく、カペタを支える人達をも、頑張れ、って言いたくなるんです。
しかし、不満がないわけではありません。
ひとつは、幼少期から、スポーンと間をすっとばして、次は有能さをしっかり感じさせる中学生として描かれてること。
幼少期は手作りに近いカートを地元の工務店のおじさんの尽力もあり、レースに出られる仕様に仕上げてもらったりと、それなりに苦労を(周囲の大人が)重ねています。これがなかなかの見所なのです。
なのに、ある時からスポーンと間が抜けて、有能な中学生レーサーとして登場するのです。
この抜けてる部分が、話を創る上で多分一番面倒くさい部分だと思うのです。作者はそこをシコシコと描き続けたかったわけでもないでしょうし、その部分に多くのページを割いていたら、読者も退屈したかもしれませんから、仕方ないといえば仕方ないのですが。
でも、「きままにウルフ」という古いマンガ(こちらは2輪のレース)でも、スポーンと中抜けされていて、しかも物語の始まりは狼に育てられた野生の少年が保護されてというようなものでしたから、「それでいきなりレースマンガ?」と、気が抜けた思いをしたのを思い出したのです。きままにウルフも、レースマンガとして、とても面白いものでしたけどね。
そんな構成をするくらいなら、カペタの場合は中学生のシーンから始めて(しかも、レースのスタートのシーン)、「やっとここまできた」とか感慨を抱きつつ、過去の(幼年期の)苦労とそれぞれの時の想いを描く回想シーンを挿入しながら幼年期を描いてたら、良かったような気がします。
もうひとつの不満は、肝心のレースシーンがわかりにくいということです。
私のマンガ読解力が足らないだけかもしれませんが、特に遠景で2台以上の車がデッドヒートする場面では、どれが誰の車で、どういう状況になってるのかが、瞬間的にわかんないのです。せっかく物語がグイグイ力強く進んでいるのに、その都度、ページを読み進める流れが止まってしまいました。
素敵な絵に「思わず目を奪われる」のならいいのですが、「あれ? どっちがとっち?」と、考えなくちゃならないのは辛いです。
車両がビリビリと振動してる様子を描写するために、進行方向に対して垂直の(要するに縦の)多すぎる効果線も、鼻につきます。それで車の形が不明瞭になってるのが、気になるのです。
普通に描くのに比べたらめっちゃ手間がかかるはずで、作者の熱い想いは伝わるのですが、読者が求めるのは、登場人物の熱い想いですから。「め組」では、それがびんびん伝わってきてたんですが。
あ、レースシーン以外では、登場人物の熱い想いはガッツリ伝わってます。
とはいえ、レースのシーンの全てがダメということを言いたいわけではありません。一人一人の描写、一台一台の躍動は、アップで描写されるドライバーの形相などなどから、レースの凄まじさはとてもよく伝わってきます。
なのになぜかバトルシーンになると、ん? と、なるのです。やはり、読解力の問題かもしれませんね。
ラストは、F3の優勝で終わります。で、即、F1かというと、そうではないらしく、F1への長い道のりが待っていることが語られます。
とても良い終わり方のように思います。もちろん、レーサー引退まで描く、というのもアリですけど、どこかで終わるなら、F1昇格とかF1優勝ではなく、未来を感じさせるこのタイミングでしょう。
そして、続編など出てこない、というのが理想です。そういったものは今のところない(ないよね?)し、今後もきっとないでしょう。
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