【 ガクラン放浪記/弘兼憲史 】
原作、稲田耕三。主人公、稲田耕三。稲田耕三先生の小説(自伝)をマンガにしたものです。原作と作画だけでなく、「脚色 吉岡道夫」とありますから、漫画として成立するように、また、読者により伝わるように、手が加えられているものと思われます。
ネット検索すると、全6巻という表記が比較的多いように思います。私が持ってるのは、分厚い全3巻のもの。講談社発行です。
自分は少年キングに連載中に読んだように思うのですが、少年画報社版(も、あったらしい)には興味を示すことなく、随分たってから、講談社版を書店で見かけて購入しました。
時代は昭和30年代。鉄道には蒸気機関車が登場します。そんな時代の話ですから、稲田家の父親が学校の先生ということであれば、いかに厳格でキビシい家庭か、想像もつくことでしょう。
2人の兄は国立大学に進学しており、耕三自身も北大医学部に進学を希望しています。
しかし、彼には喧嘩の才能がありました。ある日、不良とのケンカに勝利してしまいます。
二度と立ち向かおうという気を相手に起こさせないよう徹底的に痛めつけるのが、稲田流です。
連戦連勝の耕三に不良仲間や番長のような輩が、さらにケンカをふっかけてきます。
耕三はいわゆる不良グループには入りません。男気のある彼を慕い、友人もできます。
耕三は3人兄弟の中では一番頭がいいようですが、ケンカにあけくれ、友人と遊び歩く日々。これでは成績もいいはずがありません。酒やタバコやバイクや家出や、まあ色々あります。親にはガミガミ言われ、教師からもレッテルを貼られ、周囲からは怖れられます。
親に「学校を辞めて働け」と言われ、売り言葉に買い言葉で、一度はそうなりかけるのですが、そのために向かった職安のなんとも言えない暗い雰囲気に打ちのめされます。
現在のハローワークからは想像できない、絵に描いた「失業者」と言わんばかりの風情の人々がたむろするうらぶれた雰囲気。終身雇用が当然の時代、失業者というのはやはり何かしら訳ありだったのでしょう。また、職安を通じて就職するというのは、道を踏み外した人なんだと言わんばかりの描写です。
いたたまれなくなった耕三は「勉学に励む」と、心を入れ替えます。しかし、それも長くは続きません。本人だけが悪い(意志が弱い)とも言えない状況も手伝って、またケンカと放蕩の日々。ついに停学処分となります。
心機一転、島根で大学に通うため下宿をしている兄のもとに居候し、新たに高校生活を始めます。それまでの喧嘩仲間と決別するためでもあったと思われます。しかし、そこでもまた……。
耕三が大学に進学したかどうかは漫画からはわかりません。物語では、後に塾を開いて教える立場になったことだけが語られます。
塾とはいえ、自ら教育者になったのですから、学校というもののあり方に、最後まで納得いかなかった。そのことがひしひしと伝わってきます。
学校でイヤな思いをたくさんした分、きっといい先生になられたのでしょう。ネットには稲田先生を慕う教え子の声もありました。
実はこの作品、原作小説を当時、探してみたりもしたんです。夏休みの宿題の「読書感想文」に使おう、と思ったからです。
残念ながら見つけることができず、読みたくもない「課題図書」で、お茶を濁したんですけどね。
(55-238)