【 ギラギラ/滝直穀・土田世紀 】
土田先生の絵柄って、もっと毒々しい感じのイメージがあって、なんとなくとっつきにくかったんですけど、絵柄が落ち着いてきたのか、それとも僕が大人になって、キャパが広がったのか、どっちなんですかね?
この作品はテレビドラマにも、なりました。全7巻。六本木不死鳥ホスト伝説、というサブタイトルになっています。
妻と幼い子を抱えた七瀬公平は、生命保険会社をリストラされます。
住宅ローンはまだまだ残っていて、でも、再就職先は容易に見つかりません。
いわゆるうだつのあがらないサラリーマンだったこの公平も、かつては六本木で「王」と呼ばれていたホストでした。
生活とお金のために、ホスト界に復帰を決意します。
かつての王とはいえ、ブランクもあり、年齢的にも不利。そんな状況で彼は、店内のライバル(他のホスト)との確執を乗り越え、再びトップを目指しますが、他店との集客争いや、夜の世界の独特な勢力図に巻き込まれながらの、いばらの道です。それでも彼は着実にのし上がっていくのです。
その「のし上がっていく過程」がご都合主義ではなく、説得力があります。実力があって、かつ努力もする。ライバルである同じ店のホストも、ただ蹴落とすべきライバルではなく、一緒に店を盛り上げるための仲間として認める。多少人情モノ的な面はありますが、人情というより男気を感じさせます。このあたりが、この作品の読後感を良いものにしているんだと思います。
金を稼ぐだけ稼いで、一年で再び引退、カタギの生活に戻る、という人生設計でしたが、いつしか「俺が輝ける世界はここしかない」と気付きます。
妻には内緒で、夜の道路工事の臨時雇いということにしてあります。そりゃあ、自分の旦那がホストなんて、いい気はしないでしょうからね。
何度かバレる寸前というシーンをかわし、最後には自ら告白、奥様も理解を示します。
それだけではありません。ホストは独身と決まっていますから、彼はお店やお客様に対しても既婚者であることを隠さなくてはならなかったのです。
かつての「王」は、女性のあしらいだけでなく、後輩の面倒もよくみる人情家でもありました。
覚醒剤や枕営業に手を染める者を救ったり、公平を潰そうと画策するものとも正面対立を避けたり、公平を頼る者には力を貸したりもして、名実ともに「王」への道を再び着実にしてゆきます。
ホストクラブの業界でいきていく(いずれ経営者になる)という示唆がなされて、公平のホスト業界人生はまだまだ続きますが、物語は完結を迎えます。
サクセスストーリーのひとつでしかない、という評価はあてはまりません。なにしろ、夜の特殊な世界なわけですから。
現実のホスト界とは差異もあることでしょうが、全く知らない世界の話を、一般的な人情話にすら落とし込んであり、非常に興味深く読ませていただきました。
ところで、公平が勤めるホストクラブは六本木ですが、銀座や新宿の話も出てきて、六本木のやり方では新宿では通用しない、なんて台詞もあるのですが、さっぱりわかりません。そんなもんなの? どこでも似たようなものではないの? とか思うのですが、きっとそれは僕が素人だからなのでしょう。何がちがうのでしょうね? そのあたりにもう少し言及があれば、とは思うものの、「ふーん、違うんだ。あ、そう」くらいが、一般的な読者の興味の範囲内なのかもしれません。
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