漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 はるかな風と空ののぞみ /水原賢治 】

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 夕暮れ時になると不安に襲われるはるか。心がざわめく程度だったものがだんだんその不安が大きくなり、やがて体調にまで影響して、保健室の常連になってしまいます。
 最初は部活中に倒れて保健室に運び込まれた、というものでした。知らせをきいた恋人の広明は、保健室にかけつけようと、教室から廊下に飛び出しますが、保健室にいるはずのはるかが、目の前に。
 もう体調はいいの? 的な会話を交わす中で、はるかは「秘密の花園」のことを口にします。「記憶が戻ったの?」と、広明。
 はるかは大きな病気のせいで子供の頃の記憶を失くしており、それを機に転校。高校で広明と再会しお付き合いも始まったのですが、子供の頃の記憶が戻ったわけではありません。
 もちろん子供の頃にかわした約束も覚えてはいなかったのですが、「結婚を約束した仲じゃないの」と、広明に抱きつき、キスまでします。放課後の廊下ということもあって、その姿は大勢に見られてしまいます。
 一方、保健室のはるかは、友達が呼びに行ったはずの広明がいつまでも来ないまま、下校時刻を迎えます。はるかのファンを自称し、クラブ活動中のはるかの写真を撮りまくっている岸谷という同級生が、結局はるかを自宅におくり届けました。
 廊下でキスのことではるかと恋人の広明は校長室に呼ばれますが、はるかはそんなことをしていません。でも、身に覚えのある広明は、一緒になって否定してくれず、はるかは傷つきます。

 とはいえ、広明だって納得いきません。確かにキスしたのははるかであり、そのはるかは結婚の約束も思い出していたのですから。
 この不可思議な出来事はこれに留まりません。今度は、岸谷の身に降りかかります。ある日、岸谷ははるかから、自由に写真を撮っていいよと誘われるのです。はるかから積極的に色んなポーズをとり、スカートをちらりとめくってみたりもします。そして、「大きなパネルにして保健室に持ってきて」と頼むのです。後日、また保健室で寝ているはるか、そこへ岸谷が持ち込んだパネルは、はるかがエッチなポーズをしているものでした。はるかは、そんなもの撮らせたりはしておらず、またその恥ずかしいポーズに、岸谷を追い出してしまいます。

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 読者は既にこの辺りで、何らかのオカルティックな理由ではるかが2人いるのだとわかっているのですが、作品の登場人物達がそのことに気づくのは、さらに同級の女子生徒2人がもう1人のはるかに酷い目にあわされてからです。

 異常事態に気づいた彼ら彼女らは、対策会議をします。
 本物のはるかが保健室で寝てるときに、同時に別のはるかが何かをやらかしているので、まず2重人格説は否定されます。ならば、本当に良く似た別人、生霊、ドッペルゲンガー? などの可能性が浮上します。ともあれ、もうひとりのはるかを捕まえようということになります。

 それは成功するのですが、2人のはるかが直接対峙することになり、どちらが本物かで言い争いになります。挙げ句、強烈なポルターガイスト現象が発生、校舎の窓ガラスが粉々に割れ、もう1人のはるかも消え去ります。

 はるかは両親に学校での出来事を話します。自分に良く似た女の子のことも。すると両親は、「のぞみちゃんだわ」と、言います。
 両親によると、こうです。大病で記憶をなくしたというのは嘘で、本当は家族旅行中の交通事故だった。これにより、両親と双子の姉妹であるのぞみが死亡、身寄りをなくしたはるかを今の両親(親戚であり、子供がいなかった)が引き取った。

 しかし、真相はそうではありませんでした。はるかはその後、すべての記憶を取り戻します。
 自分ははるかではなく、のぞみ。家族旅行の日、のぞみははるかの服の方が可愛いく見えて、だだをこねて取り替えさせた。そして、事故。崖下に落ちた車の中に閉じ込められた4人。両親は絶望的。双子の姉妹のはるかも、のぞみの腕の中でどんどん冷たくなって行く。

 のぞみにとって、はるかはずっと嫉妬の対象でした。勉強も運動もできてハキハキしてて、大人達に誉められるのはいつもはるかでした。そんなこともあって、それぞれ欲しいと望んだ服だったはずなのに、のぞみにははるかの服の方が可愛らしく見えたのでしょう、服のとりかえっこをしたのは前述の通りです。
 のぞみも事故のショックで記憶をなくしており、救助されたときには、その服の交換のせいではるかと判断され、親戚の新しい両親の元ではるかとして育てられたのでした。

 だからのぞみには、記憶を取り戻した後も、広明と「秘密の花園」で遊んだことや、交わした約束の記憶はありません。
 のぞみは広明に別れを告げ、あらためてのぞみとして生きて行く決意をします。
 みんなに悪戯をしかけていた幽霊のはるかは、もう一度だけ広明のもとに現れます。そして、双子の姉妹の話をします。「あの子はいつも私がついてないとダメだった。広明くん、のぞみをよろしくね」と。
 そんなこんなで、広明は、のぞみと付き合いを復活させます。

 こうしてハッピーエンドには終わるのですが、少し物足りない気もします。死んだはるかは、のぞみのことを大切に想っていたことが示されるのですが、それならなぜ、あんな悪戯をしたのかが、説明されていないんですよね。

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 事故に遭いつつも自分だけ生き残ったのぞみへの嫉妬、しかも記憶喪失と親戚の人の勘違いが原因とはいえ、自分の名前である「はるか」を名乗っていて、自分は「はるか」として供養されてない事実。
 でも、同時に、のぞみにはのぞみとして、幸せになって欲しいという想い。
 そのためには、のぞみがのぞみとしての記憶を呼び覚ますために、多少なりともセンセーショナルな出来事を起こす必要があった…。
 そこまで読者が自ら思いをいたらせるのは少し厳しいように思いますし、そもそもそれで正しいのかどうかがわかりません。あくまで僕の解釈でしかありませんから。

 ところで、ふたりの名前ですが、「のぞみ」も「はるか」も、特急列車の名前です。なにか意識的にネーミングされてるのかなあ? と、少しだけ思いました。それとも、偶然でしょうか?

 ともあれ、僕の所持する水原先生の作品は出尽くしました。これまでに取り上げた作品と同様に、この作品でも「詩的世界」が表現されています。新作、期待しています。
 ていうか、商業誌の編集さん、水原先生に発注してくださーい!


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