【 イエスタディをうたって/冬目景 】
休載を挟んでの長期連載でした。本編は全10巻で、自分は9巻まで所持と勘違いしてましたが、実際は10巻まで所持で、全11巻でした。
かつては連載が完結したら、しばらくの間は全巻揃って書店にならんでいたものですが、いまはそんなに甘くありません。
連載が終わると、最終巻の発行もそこそこに書店から消えるのです。これは、たまりません。大慌てで未入手のものを揃えたのも、懐かしい思い出です。
書店に注文し無事ゲット。当時で5年位前の発行ですが初版でした。
本編はゆるやかな恋愛もの。最後はメインキャラの男の子と女の子が紆余曲折を経てハッピーエンドです。様々な紆余曲折が静かに流れてゆく物語なので「最後はこの2人はやっぱりくっつくんだよ」と、最初からネタバレされても納得。
不器用な恋愛模様に、もどかしくなったりもしますが、それぞれの状況に応じて悩んだり決心したりするハルちゃんの可愛らしさに、心揺さぶられるのです。じっくり読みたい作品です。
正直、この2人の恋愛はパシッと決まらないのですが、でも、読んでいて焦れったいとかイライラするとかは、ありませんでした。きっと本当の恋愛って、劇的に恋に落ちていくこともあれば、なかなか進展しないこともあるわけで、そういう意味でリアルなストーリーなんでしょう。
1対1で相思相愛になったり、あるいは、お互い相手がイヤになったり、というような単純な恋愛模様でもありません。
複数の男女が入り乱れて、「想う人には思われず」とか、気持ちが伝わった時には状況が変わっていたりとか、「未練」と「新しい機会」の間で揺れ動いたりとか。
でも、ドロドロしたものではありません。自分の気持ちがどこにあるのか、もがきながら探している、という感じの爽やか青春ラブストーリーです。
ヒロインのハルちゃんは、優しい気持ちの持ち主です。優しい、というのは一般的に良いことのように扱われますが、「ハルちゃんは、やさしいからいろんな人に気を遣っちゃうんだよね」と、祖母は言います。
東京での様々な恋愛模様に疲れたハルちゃんは、最後、東京から逃げ出してきました。
作者によると、ラストシーンは東京以外でやりたかった、とか。
そこで、舞台は伊勢志摩に移ります。東京でお世話になったバイト先である「ミルクホール」を無期限でお休みして、祖母のいる伊勢へやってきます。そして、祖母の家に寝泊まりしながら、お伊勢さんの近くの居酒屋でバイトを始めるのです。
祖母「逃げていてもなんの解決にもならないよ」
ハル「う、わかってる」
祖母「ハルちゃんはさ、子供の頃から、そう。居場所がなくなると、おばあちゃんとこ来るんだよね。ハルちゃんは、やさしいから、いろんな人に気を遣っちゃうんだよね。でも、おばあちゃんは知ってるよ。本当はすごいワガママな事。居場所は自分で作らなきゃね。逃げてても待ってても見つからないよ」
ハル「うん、でも、嘘はつきたくな:の」
祖母「そうそう、それで、すごくガンコなの」
ハル「一途って言って」
少し長めに会話を引用してみました。祖母とのこのやりとりで、ハルちゃんがどんな子かイメージできませんでしょうか?
実はハルちゃんって、なにげにモテてるんですよね。モテそうでしょう? 抱き締めたくなりますよね? 見た目も可愛いですし。
そして、ちょっと変な人です。カラスをペットとして飼ってたりします。
物語の中盤で、ハルちゃんのことをちょっといいなと思ったらしい男性が、ハルちゃんと仲のいい男性に質問するシーンがあります。
「カレシとかいるのかな?」
「狙ってんすか? やめといた方がいいっすよ」
「やっぱ、いるんだ。だよねえ」
「やっ、そうじゃなくて、見た目カワイイけど、中身けっこーな曲者ですよ、あれは」
「曲者全然OKだよ、僕は。むしろ大好物」
うん、わかります。曲者くらいの方が魅惑的ですよね。
そんなわけで、ハルちゃんに想いを寄せる男性2人が、ハルちゃんを迎えに伊勢までやってきます。
ところがハルちゃんも気持ちの整理がついて、祖母の家を出て東京に戻ろうとしているタイミングでした。
すれ違いがあったり、列車の運休があったりで、3人がそれぞれ思い通りの行動がとれない中、列車の運休のせいで交通機関の選択肢が限られてしまい、ハルはリクオとついにホームで再会、ようやく気持ちを確認しあうことができました。
伊勢は近鉄とJRが絡み合ってる地域なので、列車の運行トラブルがなければ、出会えなかったかもしれません。神が二人に味方したのでしょう。なにしろ伊勢は神の地ですから。
さて、驚いたのが、この11巻に、またしてもユースホステルが登場することです。
恋愛模様と直接の関係はないのですが、旅行中の旧知の人とハルちゃんの再会シーンで、ユースホステルが描かれます。なるほど、そういうシチュにユースホステルを使うとは、考えましたねえ。
ハルちゃんの伊勢でのバイト先で、彼女は、閉店後のお店にユースホステル(以下、YH)会員証の忘れ物を見つけます。
近くにYHがあるので、その宿泊客のものだろうということになり、翌朝、届けれることにしたのですが、会員証に記された氏名にビックリ! ハルちゃんの知り合いだったのです。
車もバイクも無い彼女がいとも簡単に届けているところをみると、実在の伊勢志摩YH(市街地からそれなりに遠い)ではなく、架空のYHだと思われます。
ロビーはYHらしい雰囲気だったのですが、外見描写が無いので、実在のYHかどうかの確認は絵からはできません。でも、架空のYHを登場させてでも、そういう状況を生み出したというのは、冬目先生がそれなりの宿泊経験があり、愛着を持って下さってるということなのだと思ったりします。
YHは「イエスタデイをうたって」のEX巻にも登場します(そちらは場所すら特定されない架空のYH)。
おまけ
EX巻収録作品の、架空の公営YHでの、フロントでのやりとりのシーン。
場面としては、モロに昭和なんですが、そこはかとなく雰囲気が出ています。これはどこか、モデルがあるのかもしれませんね。
(100-388)