漫画パラダイス

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【 暁星記/菅原雅雪 】

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 三世紀かけてテラフォーミングした金星も、それから一万年、文明はすっかり失われ、人々は原始時代さながらの生活をおくっていました。

 樹木は1000メートルをこえ、地上部には日がささず、地獄と呼ばれています。人間は地獄と樹頂部の中間、木の股などの平坦な場所に村を築いて、巨大な生物を命懸けの狩猟などをして暮らしていました。

 ある日、ヒルコたち村の若い男衆がトゲトカゲの狩りにでかけます。その夜、人間の言葉を話す巨大なゴリラをリーダーとするシンザルに教われ、これをヒルコたちはなんとか撃退しますが、ヒルコは、彼の指示にだけ従う巨鳥シロクビに、怪我人であるアシカビとシバをのせてスズシロ村に先に戻らせ、他のメンバーは荷物(トゲトカゲの肉など狩猟品)を隠して徒歩で村に戻ろうとします。が、今度は別の人々の集まりの罠にかかってしまいます。

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 オチボ村の連中と、八分衆といわれる「村八分」となって村を追い出された者たちが作ったならずものの集団でした。

 スズシロ村からは、大人の男衆、サカキ、タモ、イボタが徒歩で、ヒルコの命令にしか従わないはずのシロクビが、マユミをのせてヒルコたちの所へ向かい、オチボ村の連中と八分衆が仲間割れを起こした隙に乗じて追い払い、収穫物を持って、無事に村に辿りつきます。
 このとき、ヒルコたちは役立たずとしてリンチにあっていたアシカビをスズシロ村に連れ帰ります。

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 スズシロの村からはナズナというオンナが、村同士の結束を強めるためにオチボ村に嫁いでいます。しかし、子供の死産が続いたために不吉として村から追放されていたことを知り、ナズナに惚れていたサカキは激昂。また、同様にナズナに恋慕の情を抱いていたヒルコは、村からの追放を覚悟の上で、ナズナ探しの旅に出ることを決意します。

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 しかし、腕っぷしの強いヒルコがスズシロの村を去ることは、村の地位を一気に下げることになり、スズシロ村にとって痛手です。
 サカキは一計を案じ、定期的に行われる市(物々交換の場)で催される対抗試合での優勝(優勝した村が地区の総名代として権勢を保持できる)という条件と、1年という期限をつけることで、ヒルコの旅を認めます。ヒルコの強さを他の村の連中に見せつけることで、各地でヒルコを動きやすくするという目的もあったようです。

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 試合の決着がついた頃、市場はまるで恐竜ような巨大な蜘蛛に襲われ、これを撃退することで、ヒルコは英雄に。一方主要なメンバーが市で抜けてる隙を狙って、八分衆が多くの大躯族を従え、スズシロ村を襲います。目的は女と子供の奪取です。村には火が放たれ、男供は皆殺しにせよとの号令がかかりした。

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 拐われた女子供は、どうやらオチボの村へ連行されるようです。オチボ村はスズシロにくらべて女子供の地位が低く、「あんなところへ戻るなら」と、オチボからスズシロへ嫁いできたツツジは、巨木から地面へ飛び降り自殺します。

 市場では突如現れた巨大蜘蛛が巣作りを開始、巣にひっかかった様々な獲物を得ようと、それ以外の獣たちも集まってきて、人間たちに残された道はもはや逃げるのみ。

 このような事態の中で、スズシロ村のサカキが、他の村の親分衆に提案します。彼らは「南四が一」と呼ばれる一帯にそれぞれ村を持ち、定期的な市で物々交換や対抗試合などは行うものの、それぞれの村の場所すら知りません。
 四が一は他に、北、東、西にもあり、さらに村を追放された女達が身を寄せあって暮らす村、八分者にされたものどもの集団、自由に各地を往来できる旅芸人の集団があります。

 ともあれ、小さな村がそれぞれ覇を競っていては大きな力に対抗できない、せめて南四が一はひとつになろうと提案、受け入れられます。
 そこへ、八分衆と大躯族、オチボ村の連合軍が押し寄せ、にらみ合いとなります。

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 そして、ここから物語の展開が変化します。
 1000メートルを越える樹幹部よりもさらに高くそびえ立つタワーが描写され、そこに文明人らしき人物がいて、助手らしき人から、ゴブリンたちが戦闘状態である旨、報告を受けるのです。
 コブリンとは、ヒルコ達のことです。作品内で多くは語られませんが、テラフォーミングされた金星に人間を含む生物たちの種がバラまかれ、文明人たちはそれを放置して観察を続けていたのです。
 金星はもともと大量の二酸化炭素に覆われた灼熱地獄の星です。その二酸化炭素によって光合成が進み、巨木が発達したことがうかがえます。

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 ヒルコは覆い繁る大木から落ちた大爺の死体を回収するため、地獄と呼ばれる地面を目指します。一方で、ナズナという魅惑的な女が男達を手な付けて新勢力をつくります。金星に生み出された原始世界はこうして混沌を深めて行きます。

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 ナズナのもとに、イナンナと名乗る女の幽霊があらわれ、地球の過去を話始めます。
 政府は既になく、統合管理機構により支配されています。地球環境は人の住める状態ではなくなっており、数十億人の金星移住計画が進行中。しかし、金星に送り込まれた人類は巨大植物の肥料に使われました。決して、平和的な移住ではなかったのです。
 (生きることに)何の意味も持たされず、管理機構の意のままに、毎日が生きるか死ぬかの狭間で命を継がなければならなかった人々の姿を見せられ、逃げ延びてきた人々が暮らしているはずの落人の村には男すらおらず、子も生まれず、未来はどこにもありません。
 ナズナは落人の村人を殺害し、村を出たのでした。

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 金星上で原始的な生活を送っている人類に、それぞれ村や派閥的なものができるのは仕方ないとして、管理機構(いわゆる上流階級)も一枚岩ではありませんし、地獄と呼ばれとても人類か住めるとは思われてなかった地上部に生活の拠点を置く村があったり、鳥を自由に操れる部族がいたり、ヒルコと先端文明の接近があるなど、どうも物語の開始時点からおおきく変わってしまっています。

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 物語のラストには、絵的には救いが描かれています。
 しかし、登場人物の台詞に、それはありません。
 生まれし者には必ず絶滅があり、悲劇しかないのだ、ということのようです。これこそがまさに、この作品の哲学なのでしょう。

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 そして、そのささやかな一生の中で、私利私欲にまみれて生きるのも、世のため人のために生きるのも、アナタの自由です、アナタの精神を充足されるのはどちらの生き方ですか? と、問われているいる気がします。
 その精神の充足を感じるか感じないかもアナタ次第、神は関係ありませんよという示唆もそこには、含まれているのでしょうね。
 そしてまた、「金星」を舞台にしてるから冷静に読めるかも知れませんが、これはまさにいま、「地球で起こってることなんですよ」という警鐘とも受けとれます。(全8巻)

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(152-563) 

 収集に苦労した作品でした。
 6巻あたりまでは、モーニング連載作品だったと思うのですが、以後、書き下ろしなんです。
 最終8巻の情報はどこからともなく入ってきてたのですが、7巻を買い逃したまま絶版。
 古書に出回るまでにも時間がかかったようです。おそらく漫画喫茶が棚を開けるために処分したのでしょう。8冊まとめての販売しかありませんでした。まあ、仕方ありません。
 そのうち、本のスタイルの漫画なんか、無くなるかもしれませんね。でも、それくらいなら、本のスタイルの教科書、やめてくれませんかね? 重かった。しんどかった。つらかった。勉強なんかする気にならなかった。当時はせめて、上下2分冊にしてくれないかなと心底思ったものですが、今となれば、iPadでええやん、教科書こそ。