【 オサムシ教授の事件簿/山口よしのぶ 】
生物学の教授で昆虫が専門のオサムシ教授と、その娘でフリーライターのアゲハが活躍する推理ものです。
かなりお気に入りの作品で、「これ、実写ドラマにならんかな?」とか思ったほどです。実現には至らなかったものの、そういう話もあったようです。
さて、自分にとってはお気に入り作品なのですが、ネット上のレビューには酷評も存在しています
そういった評価に目を通した後で作品を読み返してみると、「あれ?」と、思いました。
確かに「推理もの」というには、密室殺人とか完全犯罪とかダイイングメッセージとか、ミステリー定番の状況が練り上げられてるわけでもありませんし、「お話の序盤から出てきてて、かつその中でいかにも怪しくない人が犯人だった」、というパターンも少なく思えます。
実は購入前に少しでも読んだことがあるのかというとそうではなく、山口よしのぶ先生が好きだからという理由だけで、中身を知らぬまま入手したのです。
しかし、「あれっ?」と思ったのは1巻だけでした。2巻からは、断然面白くなっていきます。昆虫の生態や痕跡が、事件の解決につながるストーリーが増えていくのです。
「お前が犯人だ!」という決め手の材料がちょっとしんどいかも、もし犯人が白を切り通したら、事件解決できないのではと思うこともありますが。
でもね! でも! 昆虫に関する知識と観察眼、そして、そこから展開される推理、見事なんですよ。
それに、事件が絡んでいるからといって、定番ミステリーにする必要もないのではないでしょうか。
事件を解決するというミステリーの体を借りたヒューマンドラマだと思えば、とても秀逸な作品です。
警察でも探偵でもない人が次から次へ殺人事件に出くわすのは不自然ですけど、それを言っちゃあ「コナン」も「金田一」も成り立ちません。
後付け設定だろうとは思いますが、警察との協力態勢も再構築され(もともと東京監察局法医昆虫学室の顧問だったが、さる事情でやめたことになっています)、探偵ものの雰囲気から、刑事ものっぽく変化していきます。
ラストは、雑誌側の事情によるのか、作者自ら作品を終わらせる決断をしたのか、ちょっと判断しかねますが、警察内部のなんやかやまで絡んできて、一民間人が専門知識で捜査に協力・助言するというレベルではなくなり、大袈裟と言えば大袈裟、幕引きらしいと言えば幕引きらしい、大きな展開をしていきます。
大きな展開をして終わるよりも、ダラダラ続いて欲しい作品でした。
全5巻。5巻目だけは、結末まで収録のためにぶ厚くなってます。約300ページ。こういう時、普段あとがきを書く作家でも、あとがきがなかったりしますが、オサムシ教授の事件簿は最終巻までキッチリついています。
昆虫が絡んでくる推理ものは、唯一無二ではないようですが、今後も、そう簡単に出てくるジャンルとも思えません。
僕がとくに気に入った作品は、「食虫植物ウツボカズラの逆襲」(前後編で他の話より長く、中身が濃い)、「成金村長とネジレバネ」(殺人の道具として昆虫が使われた)、「死に神 赤い血と青い血」(昆虫の血液は青色、という蘊蓄が出てくる)の3本です。
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