【 君のナイフ/小手川ゆあ 】
産休補助要員として教師を勤める志貴のもとに、「500万円で人を殺して欲しい」という依頼が舞い込みます。
相棒は久住と名乗る警察官。補佐するのは運転手役のヤン。依頼するのは謎の美女、リカ。
こんな寄せ集めで殺人なんか実行できるのかと思われますが、なにしろ久住は警察官。プロ中のプロです。
志貴には重病の姉がいて、金が必要だったということもあります。
リカが言うには、ターゲットの住む家の地下室には1000千万あるはずだから、好きにすればいい、とのこと。しかし、地下には「いつき」という少女が監禁されており、人の心を読むことができる彼女は志貴と久住が父親を殺したことに気づいてしまいました。
その場でいつきを殺そうとする久住、関係ない者を殺すまいとする志貴。2人の意見は別れ、結局、彼女を連れ帰る破目になります。しかもいつきは、悪人退治の殺し屋仲間になることを希望します。
志貴は彼女を家に閉じ込めたまま学校へ、久住は警察へと、通常勤務に向かいます。その日のニュースでターゲットが殺されたことを確認した依頼者からは、500万円の報酬がリカから届けられました。
そして、さっそく2人には、次の仕事が打診されます。
不登校や家庭内暴力はじめ、家に居場所をもてない若者をだまして、裏エロサイトを使ったワンクリック詐欺の片棒を担がせ、荒稼ぎしている連中がターゲットです。
そういったことでしか生きる糧を得られない彼らですが、「英」は足抜けしたいと、仕事を紹介してくれた「備前」に相談し、備前はそれに賛成します。そして、仕事の元締めであるらしい渋谷という男に、足抜けの挨拶に向かいます。まずは紹介者である自分が話をつけてくるからと、備前は英を外で待つよう言い残し、1人で事務所へ。
志貴と久住が受けた依頼は、その元締めである渋谷の殺害。しかも、見せしめのためにリンチにして殺すというものでした。
そして、まさにその殺害の現場に、備前がやってきてしまったのです。やむを得ず志貴と久住は2人とも殺害し、現場を脱出。
外で待っていた英、殺人を終えた志貴と久住が、建物から出てくるのを見ます。なんとなく異変を察知して事務所に向かいますが、そこには血まみれの男の死体が2体。救急車を要請しますが・・・。
殺人事件ですから、捜査には実行犯である久住刑事本人が投入、場所が詐欺グループの拠点だったことから組織犯罪担当の保坂刑事や伊藤という新人女性刑事なども加わり、合同捜査になります。
通報者(英)の携帯電話が残されており、この通報者が事件の目撃者として警察は探し始めます。また、少女を地下に監禁しており、先に殺害された男も、今回の被害者も暴力団「集英会」と繋がりがあるため、同一犯の可能性も警察は視野にいれます。
英は自ら備前の復讐をすべく、警察の追っ手から逃れます。が、英は志貴と久住が何者かすらわかっていません。どうしたらあの2人を探せるのか?
英が宛もなく苦悩しているとき、別の事件が起こっていました。1家3人惨殺事件です。久住はこの犯人を殺したいと思い、リカに「ターゲットはこっちから指定できるのか?」を問います。が、リカは渋谷殺害の時に一緒に殺した備前のことを指摘、ターゲット以外を殺すとポイントが下がると忠告します。
復讐を企てる備前は、詐欺グループ時代の上部団体のヤクザに会ったり、刑事を尾行するなど、徐々に核心にせまります。そしてついに、1家3人惨殺事件の犯人を志貴と久住が殺している現場に踏み込みます。
備前が生前入手していた銃を英は所持しており、3人は揉み合いになった結果、警官の久住が撃たれますが、英は志貴に銃を取り上げられて取り押さえられ、ヤンとリカの協力のもと、久住は獣医により一命をとりとめ、英は志貴の家へ連れ帰られてしまうのです。
志貴たちによる集英会関係者の連続殺人や、傘下詐欺グループの英の行動など、不穏さを感じたヤクザの矢作は、部下に英を監視させます。英が捕らわれている志貴のアパートから志貴が大荷物をもち外出したので、矢作は部下に英の救出を命じますが、中にはまだいつきもいます。
英を解放したヤクザによっていつきが犯されそうになるのを見た英は、ヤクザをフライパンで殴り殺してしまいました。
矢作が別の取り立てで失敗(旦那の借金の肩代わりに犯された奥さんが自殺)したこともあり、警察の動きが慌ただしくなります。英も矢作の部下を殺しており、全てのことをおさめるには、ヤクザ同士の抗争にみせかけて、集英会幹部5人の皆殺ししかないという結論になりました。
褒賞金のついた正式な「殺し」の依頼になり、英も組員を殺している以上、志貴たちにつかざるをえません。組事務所への突入&皆殺し作戦が開始されました。
この作戦は、当初の予定通りとはいかない部分もありましたが、一応の成功をおさめます。
で、いったんここで、話の流れは切れてしまうのですが、完全に切れないところが、この作者のうまいところですね。
間髪入れず次の殺しの依頼が来ますが、大きなストーリーの流れがひとつ終わったにもかかわらず、唐突感がありません。流れが自然です。その要因はおそらく、大きな流れがひとつ終わっただけでなく、その大きな流れの中にも、いくつかの殺しの依頼と成功報酬の受けとりがあり、彼らへの殺しの依頼が既に日常化しているということ、もうひとつは、いつきと英の行き場がないままになっていて、引き続き物語に絡んでこざるをえないこと、だと思います。
多くのネットの票では、「こんなに後味の悪い作品はない」的な書かれ方をしています。
後味が悪いと書かれてはいますが、作品の評価が悪いわけではありません。
志貴達の殺し屋グループに失敗があり、先に記した「ポイント」とやらが、大幅に下がったことが示唆されています。
このため、別の殺し屋グループに志貴達を殺すよう依頼があったようです。
そのようなわけで、主要な登場人物は、主役級を含めて全て死亡します。主役級以外の人物も死にます。もちろん、ターゲットにされた人物は殺されます。
殺人依頼の黒幕はどうやら牧師らしいことが、ラストのコマで想像できないわけではありませんが、お金の出所はわからないままです。まさか信者のお布施ではなかろう、とは思うのですが。
志貴はその教会を通して匿名で姉の入院する病院へ治療費を寄付という形で行っていましたが、それも今回の分はどうなるか、あやしいかもしれませんね。志貴を殺した人への報酬にまわるかも・・・。(全10巻)
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