漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 竜宮家族/石坂啓 】

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 「家族とは何か、絆とは何か」を、問いかける問題作品なのだそうです。うん、チクチクと刺さりますね。
 でも、そこに到達する前に読者はまず、家が一軒まるごと海上を漂流するという特異な状況を受け入れなくてはなくてはなりません。
 海上を漂流する家族は、海上を漂流することを日常として受け入れています。普通なら、何日も救助隊が来ないことに苛立ったり、絶望したり、発狂したり、無駄なあがき(手漕ぎで陸をめざすとか)をしたりするでしょう。でも、それをしない。この特異さが石坂イズムなのでしょうけれど。

 ミヤコは離婚の手続きを進めるため、子供2人と共に、かつて夫と暮らしていた家を訪ねます。その時、大地震が発生し、海沿いの傾斜地にあったその家は地滑りで海上に放り出されます。そして、牡蠣の養殖イカダにうまいこと乗っかって、沈みもせず海上を漂流しはじめたのです。

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 そこへ、ぷかぷか浮かぶ物置にしがみついた隣家のスミスさんが漂着。そうして、一家4人と老婆1人、そして猫一匹との、海上での共同生活が始まりました。
 物置はもともとミヤコ達のものです。中には何か役に立ちそうな物資もありそうです。ですが、スミスさん宅に50センチほどはみ出して設置されていたとかで、何度苦情を申し入れても改善されなかったんだから、物資の所有権は自分にもあるとスミスさんは主張します。ともあれ、なんだかんだと揉めつつも、物資を分け合い、有効活用しながら、生きなくてはなりません。

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 そこへ様々な人が来ては去っていきます。不動産屋が訪ねてきて「売却のための査定」をしたり、同じ村の住人がボートでやってきて好き勝手なことを言ったりしているうちはご愛敬。

 家族でも知らなかった色々なことが明らかになり、やがて、家族の絆が綻んでいきます。いや、既に十分綻んでいたわけですから、絆の弱さがいよいよ露呈し、バラバラになっていくと言った方がいいかもしれません。
 みんな、徐々に去ってゆくことになるのです。 

 海上の不安定な漂流家屋から去って行くのは当たり前のことなのですが、ここでは海上の漂流家屋は陸上の普通の家と変わらない位置付けであり、そこから人が去るのは、離散を意味します。

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 まず中2の娘。
 地味な描写がされてますが、親に隠れてタバコを吸ったり世の中を斜めから見るような子。それがちょっと盛ってみたらすげー可愛くて、芸能界デビューが決まります。

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 その後、残された家族とスミスさんは豪華客船に救出され、被災者として船客となる権利があることを知らされます。

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 ミヤコは救出されたその船で、新しい恋人に再会します。ミヤコは新しい生活を始めようと離婚のために別居中の夫を訪ねてきていたわけですから、恋人がいても不思議ではありませんが、その新しい恋人の子を妊娠していることが一同にばれます。そしてミヤコは、息子と一緒に彼の部屋へ移動します。

 取り残されたのは、元夫の竜ちゃんとスミスさん。豪華客船には竜ちゃんやスミスさんも居ていいのですが、2人はここら自分の居場所ではないと悟り、猫をつれて救命ボートで船を離れます。

 漂流している家に戻った竜ちゃんは、引き続き救命ボートで陸を目指して航海するというスミスさんに猫を預けます。
 そして竜ちゃんはひとりきりになり、海上の一軒家で漂流を続けます。