漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 空電ノイズの姫君/冬目景 】

 またバンドものです。「なでしこドレミソラ」から、「紺碧の國」、そして当作品と偶然続いてしまっています。まさか冬目先生がこのような作品を著されるとは思ってもいませんでした。
 主人公の磨音(まお)は、強烈なくせっ毛というのもあるのでしょうけど、いままでにないキャラに思えます。磨音と親しくなる転校生の夜祈子(よきこ)は、お馴染みな感じのキャラです。黒髪ロングストレートで、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせています。

f:id:mineshizuku:20190212005309j:plain

 この作者の音楽表現もまた独特で、「なでしこ」(和柄など)とも「紺碧」(文章)とも異なり、演奏(動きのあるシーン)の一瞬一瞬を切り取った静止画です。変な効果線などが無い静止画だからこそ、動きを感じます。一方、ドラムやベースには擬音語が多用されます(3巻の指導のシーン)。擬音語がリズムパターンになっててわかりやすいです。

 僕は冬目先生のカラー絵がとても好きです。1巻1話のタイトルページ、これ、絶対カラーに違いないのに、コミックスではモノクロになってて、「ここ、カラーで収録してよ!」と思ったのですが、3巻に掲載されました。

f:id:mineshizuku:20190212011144j:plain

 ね? いいでしょう? 無理矢理ページを開いてるので、ちょっと歪んでますが。

 高校2年生の磨音は、電車が混むのかイヤで、早めに登校しているのですが、その日は磨音より先に誰かが教室にいて、磨音も聴き覚えのある歌を歌っていました。そこにいた少女、夜祈子に、見覚えはありません。転校生でした。

 磨音はミュージシャンの父と二人暮らしです。夜、いったん帰宅して磨音の作った夕食を一緒に食べた父は、仕事をしに録音スタジオに戻ります。千諭(ちさと)という女性から「さびしかったらウチにきていいよ」とメールが来ます。後に、父の恋人であることが示されますが、磨音とも関係良好です。大丈夫ですと返信する磨音。1人でいるのが好きみたいですね。次の日には夜祈子に、ハブられてんの? と訊かれる位です。学校でも1人でいることが多いようです。授業が終わると、「今日はお肉が安い日だから」などと考え事をしながら下校するくらいです。

 そして磨音が向かったのは、父が練習用に借りてるスタジオでした。括っていた髪をほどき、そこに置いてある父のエレキギターを掻き鳴らします。
 父がバンドをやっていた頃から借りているスタジオで、メンバーの1人が死んで解散したあとも引き続き父が使っており、磨音も鍵を渡されていて、自由に使っています。

f:id:mineshizuku:20190212113337j:plain

 ある日、磨音は学校帰りにスタジオに寄るようにとのメールを父から受けとります。行ってみると、「ギターを探している」という大学生のアマチュアバントを紹介されました。父のバンド時代の仲間の兄の息子とその仲間、高瀬と日野です。
 しかし高瀬は、磨音を見るなり、「この話は、無かったことに」と断りを入れます。制服姿の女子高生に、「この子にギターがまともに弾けるの?」と感じたようです。高瀬が去り、課題があるからと磨音も去り、残された日野は、磨音の父に、録音された磨音の演奏を聴かされます。その技術の高さに驚き、高瀬に聴かせると言って、音源CDを借りて帰ります。

f:id:mineshizuku:20190212131104j:plain

 磨音の父が千諭(恋人て音楽雑誌の記者)から仕入れた情報では、高瀬の弟チアキ(ボーカル&ギター)が巧くて人気を得たスリーピースバントだが、チアキが交通事故で亡くなって、残された二人のメンバーは、「まあフツー」とのこと。

 翌日、CDを聴いた高瀬が、磨音を学校の前で待ち伏せし、ギターを弾いて欲しいと依頼します。磨音はバンド活動をする気はないからと、いったんは断るのですが。
 高瀬は、亡き弟が残した曲を形にしたい。それを磨音に演奏して欲しい。それさえできれば、次のギター(をやる人)に聴かせられる、と説得します。バンドメンバーになる必要はない、ということです。
 ここで磨音が首を縦に振ったのは、父のバンドがメンバーの死で解散していることもあるのでしょう。父のバンドは解散したけれど、続けようとしている彼らに協力しよう、と。

 同時に夜祈子の物語も進行していきます。彼女は駅でなんらかの精神的な後遺症による発作(フラッシュバック)に襲われ、倒れそうになります。ホームのベンチに腰かけて休んでいると、高瀬との話を終えた磨音がやってきました。夜祈子の異常に気がついた磨音は、彼女を家まで送っていきます。

f:id:mineshizuku:20190212132420j:plain

 夜祈子は分譲団地で1人暮らしをしています。両親はおらず、もともと祖母と2人でここにいたのですが、祖母が療養所に入ったので、叔母の家で暮らし始めました。でも、ここへ戻ってきたと言います。それで、磨音の学校へ転校してきたんですね。
 最初、夜祈子は磨音(主人公)の友達という位置付けだと思ってましたが、3巻まで読んで「これ、Wヒロインだよな」と感じました。
 磨音は夜祈子の持っているたくさんのCDが気になります。クラシックロックが好き、という趣味は合うようです。そして、その中に父のバンドのCDを見つけます。磨音はたくさんCDを借りて帰ります。

f:id:mineshizuku:20190212235249j:plain

 数日後(おそらく)、磨音は大学の軽音部部室に、高瀬と日野を訪ねます。「父のですけど、フェンダーストラトでスタンダードなヤツ持ってきました」と、2人と合わせます。磨音の演奏は、とても良かったのでしょう。自分達の楽譜を渡そうとするのですが、「わたし、楽譜よめないので、耳コピします」の言葉に、愕然! いや、愕然としたのは、高瀬ではなく、読者の僕ですけどね。
「おめー、楽譜よめねーのかよ!」
 いや、僕も読めませんが、昔は読めましたよ。高校生っつったら、ついこないだまで、中学校で音楽の授業あっただろ? 楽譜、読むだろ? そういえば先日レビューした「紺碧の國」なんか、中学生なのに楽譜が読めないとありましたね。まっまく、日本の音楽教育はどうなってるんでしょうね。

 その夜、磨音は千諭の部屋を訪ねたようです(多分、磨音の家に千諭が来たのではないでしょう)。セッションしてみてどうだったと訊かれ、楽しかったと答えます。なら正式なメンバーになればいいのにという千諭に、磨音は消極的です。
 第一に、自分自身がバンド活動に興味がないこと、そして、ギターを弾くことは良くても、バンド活動には父が賛成しないであろうことがあげられます。その他にも、彼らだって女の子は扱いずらそうとか、ギター弾く以上のことは望んでなさそうとか、色々言います。
 そんな磨音も、ひとたびギターを手にすると人が変わります。真剣演奏モードになると、括っていた髪をほどき、くせっ毛ゆえの大きく広がった髪も彼女の音楽表現のひとつかのように、ギターと一体化するのです。

f:id:mineshizuku:20190213022623j:plain

 夜祈子の家に遊びに行って、レコードプレーヤーからロックを聴かせてもらったり、オムライスをつくってあげたりと、次第に親密化していく磨音と夜祈子。
 同時に、父の練習スタジオに新しく入った黄色いレスポールでCDに録音した演奏を高瀬達に渡して、さらにアレンジを煮詰めていくなど、彼らの音楽にも夢中になっていきます。

 ツアーから帰った父に、高瀬たちと練習してることを指摘され、「ちょっと頼まれて」とか「音源作りだけだよ」とか、言葉を濁す磨音ですが、「メンバーになるとかじゃないんだよな?」と、念を押されます。
 かといって、父娘の関係が悪化してるわけではなく、「新幹線、五百系乗れた?」なんて雑談もしています。いや、五百系って、漢数字で書いてあるの、初めて見ましたよ。
 むしろ、父娘の関係が悪く、「あたしのやることにいちいち口を出さないで!」なんて状態の方が、とりあえずは磨音にはやりやすかったかもしれませんね。もちろん、後々のことを考えたら、そんなことはありませんが。

f:id:mineshizuku:20190213024732j:plain

 磨音と高瀬のアレンジ工夫のためのミーティングも回数を重ねてゆきます。

 そしてついに高瀬は、毎回より高度なテクニックを要する提案をしてきて、「できます」と言う磨音に我慢できなくなり、メンバーに加わってくれと懇願します。それはもっと馴染んでからと考えていた日野も、高瀬がフライングしてしまったことで、「俺からも頼む」と、もう必死です。キミのような人には二度と出会えないとか、この機会を逃したら一生後悔するとか、言葉の圧もすごく、ついには土下座。メンバーになるからやめて下さいと、磨音が悲鳴をあげます。
 ここまでで、1巻です。

f:id:mineshizuku:20190213033921j:plain

 父親の帰りが遅いからと、磨音は夜祈子を自宅に誘います。オムライスを作ってあげると言われて大喜びでついてくる磨音。ところが、磨音の父、拓海が予想外に早く帰宅。夜祈子は「伝説のロックバンド THE AMBER JACKのギタリストTAKUMIがいると大騒ぎ。磨音のくせっ毛がふわふわでかわいいとかはしゃいだり、拓海に泊まっていったらと勧められたりで、上機嫌です。お風呂で歌まで歌いだして、その美声が拓海の耳に止まります。
 父も女子高生からファンだったといわれてまんざらでもなく、今ならバンドを始めたと言えそうだと磨音は考えるのですか、タイミングを逃して言えません。
 後日、磨音の様子が最近おかしいことから父がそれと察してしまいます。磨音は反対されると思って言えなかったと謝りますが、拓海が大学生の時に音楽活動を許してもらうために親に言ったのとほほ同じことを磨音に言われ、許すしかなくなってしまいます。磨音はついでに、ギターを自由に使わせて欲しいとも頼みますが、これは拒否。そのかわり、黄色いレスポールを「しょうがないなあ、コレやるよ」と。

 夜祈子にも転機(に、なるかどうかは、これからの展開しだいです)が、おとずれます。父の知り合いのバンドから、女性コーラスを探していて、夜祈子に訊いてくれと磨音は頼まれます。
 磨音は夜祈子に、自分がバンド活動をしてることすら言っておらず戸惑いますが、夜祈子の買い物に付き合ったあと、自分達のバンド練習を見に来ないかと誘います。父の拓海のことといい、磨音がギターを弾いたりバンド活動をしたりしていることといい、夜祈子は驚かされることばかりです。

f:id:mineshizuku:20190213115433j:plain

 この頃から、当初「まあフツー」ということになっていた高瀬と日野の歌や演奏が、どうやら「下手」という方向に定着してきます。高瀬は声量も声質もいいが微妙に音程が外れたりします。歌いながらベースのリズムをキープするのが難しいと感じています。日野のドラムスも、どうも突っ込みがちなようです。音楽談義のついでに、磨音は父から頼まれたコーラスの件を夜祈子に伝えます。わたしのようなドシロートに無理と夜祈子は言うものの、拓海の推薦なので、その気になったようです。

f:id:mineshizuku:20190213120435j:plain

 アルタゴ(磨音たちのバンド名)は、チアキがいた頃に出演していたライブハウスのオーディションを受けます。店長から「ギリ合格」と言われて、2か月後のタイバンイベントに参加できることになりました。
 夜祈子は紹介されたバンドの初リハーサルに参加。後に「三田ーズ」というバンド名だと判明しますが、なんですかね、この、ネーミング。野球の独立リーグじゃあるまいし(といっても、わかる人は、ごく少数ですね)。彼女の歌の実力にメンバーも感心したようです。

f:id:mineshizuku:20190213121732j:plain

 息抜きに海でちょっと遊ぶ程度で、練習に追われた夏は終わり、磨音・夜祈子それぞれライブの日が近付いてきます。
 磨音たちは、過去の実績があったためか、その日のトリです。
 ところが…。

 磨音たちの直前に出演したバンドの演奏に圧倒された磨音。すっかり、呑まれてしまい、自分がステージに立ったときには、指が思い通りに動かせなくなっていました。技量ではメンバー随一の磨音、自分が崩れたら、高瀬と日野の足もひっぱってしまいます。全てが台無しになります。焦りがこうじて、立て直せないまま、この日の演奏は終わってしまいました。ライブハウスの店長や店員はもとより、客の評価もさんざんです。

 新生アルタゴの復活ライブは、その名にふさわしい華々しいものにはならず、多くの反省を残しました。

f:id:mineshizuku:20190213123218j:plain

 意気消沈したまま気持ちを持ち上げることができず、1週間もギターに触れられずにいる磨音。ボーカルベースの高瀬も同様ですが、彼は逆に曲作りに没頭することで、傷ついた心から目を背けていました。
 夜祈子がコーラスサポートで出演する三田ーズのライブには3人ででかけます。拓海はじめアメーバジャックの一部メンバーや、千諭も来ています。
 夜祈子の歌が一級品なのはこれまで作品内でも何度も描写されています。ステージに上がっても彼女は堂々と、そして実に楽しげに、歌い上げました。

f:id:mineshizuku:20190213195146j:plain

 打ち上げを抜けて帰ってきた拓海は、音楽関係者から夜祈子に連絡とりたいと言われたとか、彼女は本当に歌う気は無いのかとか、先に帰宅してた磨音に言います。
 あれで目立つのが嫌い、実は性格は地味、本当は緊張していたらしいなどと磨音は伝えますが、それにしては堂々としていたと父は感心します。
 磨音は「あれで、妙に度胸が座ってる所があるから、やるしかないとなったらやるんだよ」と、友達の性格分析を口にし、そして気づきます。
 やるしかないんだ、と。
 ライブハウスで打たれて以来、ギターを手にすることもなかった磨音に、ようやく再び火がつきました。

f:id:mineshizuku:20190213200235j:plain

 日野も高瀬もアメーバジャックのドラムスとベースから、それぞれ指導してもらえるようになり、磨音も復活して、以前よりずいぶん音がまとまってきました。
 磨音は夜祈子に、本当に音楽をやる気はないのと改めて訪ね、ない、という返事をもらいます。
 一方、日野と高瀬は、あれだけの逸材が側にいてスカウトしない手はないと、アメーバジャックの人たちに言われます。

 そして物語は、磨音と夜祈子の過去のエピソードが少し描かれ、それが冒頭の、2人が学校で出会うシーンにつながって、全3巻、終了です。

f:id:mineshizuku:20190213201619j:plain

 そんなバカな。これで終わりなの? そう思ったアナタは正しい。「イブニング」に移籍して、タイトルを「空電の姫君」として連載続行とのことです。

 自分がバンドをやっているせいもあるでしょう。本来ならこの作品は、「めっちゃ好き」にカテゴライズされるべき作品です。でも、今のところ、「めっちゃ」までは行きません。それには理由があります。完結時点で続編制作とその掲載誌までが決まっていて、この続きが確実に読めるからです。僕の「好き」という気持ちもここで完結せず、この先への期待が大きいのです。

(219-874)