【 幻影博覧会/冬目景 】
冬目景先生の作品です。全部ではありませんが、冬目先生の作品は、そこそこ持っています。好きです。
この幻影博覧会は、舞台は日本、時は大正、ジャンルは探偵ものです。
といっても、謎解きそのものが主題というより、人物やそれをとりまく状況に重きが置かれてるようですね。複雑怪奇な推理もありませんし、金の仏像なんかは私でも謎解きできましたから。
歳の頃は、16~7くらいの真夜は、居候先の藤枝博士の紹介で、博士の教え子である松之宮なる人物が経営する探偵事務所に就職します。
物静かですが優秀で博識な彼女は、松之宮の良き助手として活躍します。
ストーリーは、1話から数話で完結。ゴルゴ13スタイルです。全体を貫く謎も最初は感じられません。
しかし、物語の進行につれて、ある謎が深まってゆきます。それは、物語の中で依頼される謎解きや発生する事件ではなく、真夜そのものの謎です。
真夜は、なぜか未来の予想ができる能力があるのです。これが唯一、この作品でのファンタジー要素でしょう。
もっとも、作品全体にファンタジックな雰囲気は静かに流れているんですけどね。
大正という時代のせいもあるでしょう。登場人物に洋装と和装が入り乱れているのも、この作品の雰囲気に一役買っています。
ところで、なぜ真夜が藤枝博士のところに身を寄せているのかというと、彼女の両親は古物学者でほとんど海外暮らしのためです。
その両親もやがて帰国。一緒に暮らそうということになります。しかし、松の宮のもとで助手を続けたい真夜は、両親と一緒に暮らす決意がつかずに逡巡します。
訳あって、親元を離れて1人暮らしをしている松之宮は、真夜のことを想い、やはり彼女は親と一緒に暮らすべきと考え、説得します。彼女もそれに応じ、探偵事務所を退職するのですが…。
ひょんなことから真夜は、この両親を名乗る人物が偽物であることを見抜き、逃げだします。
松之宮は松之宮で、恩師であるはずの藤枝博士が実は恩師などではなく、思い出そうとすればするほと、思い出の中に居ないことに気づきます。そして、それ以降連絡がとれなくなってしまいます。
真夜の両親を名乗るのは何者? そして、藤枝博士の正体は?
探偵と優秀な助手の物語から、話の展開が変貌していきます。
そして、とどのつまりは「では、真夜って何者」ということになるのです。そういえば、彼女には未来予知の能力があるのでした。
得た結論は、真夜に予知能力があるのではなく、彼女は未来からやってきた人であり、だから歴史を知っている、というものでした。
偽の両親のもとを逃げ出した真夜は、友人達の協力もあり、松之宮と再び会うことができました。
彼女をとりまく人々はおおむね正しく彼女の正体を悟っていきます。
そして、ついに彼女が本来のいるべき時間に戻るための、本当のお別れの時がやってくるのです。
松之宮探偵事務所は、しかし、彼女の去ったあとも、平常通りの業務をこなしている模様です。
(133-490)