【 春の呪い/小西明日翔 】
短いながらも強烈なインパクトを与えるタイトルです。
「呪い」といっても文字通り呪術的なものもあれば、オカルトとは無関係な比喩的表現もあります。
この作品の場合は、オカルトではありません。「このマンガがすごい2017」で2位なのだそう。
話はそれますが、田村由美先生の「ミステリと言う勿れ」が、2019年の2位とか。さすがにこの作品は「選ばれなくても買うでしょ?」と思いましたが、知られざるお勧めを紹介するのが目的ではなかったんだと、改めて感じた次第です。ミステリと言う勿れは、持ってますけど、実はまだ読んでません。
徐々に作品のリスト作りを目的に始めた満開レビューですが、思いもよらず力が入ってしまい、真剣に読み直したりしてるものですから、なかなか先へ進まないのです。
話を「春の呪い」に戻します。
夏美には、春という名の妹がいたのですが、ガンで亡くなります。その時、春には柊冬吾という婚約者がいました。
そして今、夏美は妹の婚約者だった冬吾と付き合っています。そんな物語です。
諸事情や経緯を抜きにして、死んだ妹の元婚約者と付き合ってるという部分だけを取り出すと、いかがなものかという気になります。もちろん、それがただちに「けしからん」というわけではありませんし、このことをもって非難するなら「タッチはどうなん?」ということになりかねませんが、この作品においては、読者を「それって、どうよ?」と感じさせる方向に導いてるのです。いやがおうにも不穏さが漂います。
が、夏美は妹と違い、冬吾と息もなかなか合わなさそうです。
二人のデートは、「春と冬吾の思い出の地」巡り。これでは、故人の気持ちに近づくことはできても、夏美と冬吾の進展に寄与するとは思えません。しかし二人は、デートのスケジュールをこなしていくなかで、少しずつ、理解を深めていきます。
そしてついに、その日がやってきました。「思い出の地」を訪ねきってしまったのです。
果たして二人は、お互いの理解や愛を、確認しあったり、深めたり、することができたのでしょうか?
冬吾の交通事故、そこで生まれた「身近な人にもう誰も死んで欲しくない」という夏美の想いも、2人の関係に影響していきます。
そして、母の懺悔的助言がきっかけとなり、二人は同棲を始めます。
全体的に明るいストーリーではありません。
暗くはありませんが、明るくもないわけです。イメージとしては画面全体にもやがかかったような感じです。(漫画としての絵が、そうだというわけでは、もちろんありませんよ。)
エンディングでは、いくつかの救いがあります。
どういう読後感を持たれるかは、読者次第、というところでしょう。
同棲にまで至ったことでハッピーエンドとしていいのでしょうけれど、2人の今後が「いえーい。ついに一緒に暮らせる。ラブラブだぜい」というわけではないでしょうね。
2人の性格からすると…。破綻はしないものの、関係性に劇的な変化があるはずもなく、ただ延々と優しい気遣いを重ねていく、というところでしょうか。
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