【 軽井沢シンドローム/たがみよしひさ 】
相沢耕平
古い作品です。1巻の奥付には昭和57年とあります。
主人公の相沢耕平の連載開始時の年齢からすると、私はそれより随分(あるいは、幾分)若かったのですが、作品を揃えたのは連載終了後ですから、ほぼ自分と同年代の男が主人公として、羨ましく思いながら読んだものです。
松沼(後に、相沢姓に)薫
物語は、カメラマン(ヌード専門)の相沢耕平と、相棒(というか腐れ縁? 幼馴染? 親友という感じではない、かな)の松沼純生の2人が、そういったフリーランスの生活が成り立たずに金に困って、純生の姉の薫(耕平とも顔見知り)が住む軽井沢の別荘に転がり込むところからスタートします。
ミルク
そして、軽井沢を舞台に、似たような年齢層(一部を除く)の男女がああだこうだなっちゃう青春群像です。その登場人物たるや膨大で、徐々にややこしくなっていきます。
なにがややこしいかと言いますと、「ゲストキャラ」が、いつしか準レギュラー化し、やがて後の物語の展開に関わってくるからです。
純生(すみお)
表紙絵にはなってませんが、吉崎匡一とか、暴走族取り締まりのナンとか言う名物警官とか、オルコタイタ(飲食店)の舞とか、イブとか、ダイとか、もうめちゃくちゃ登場人物多いです。
ちょっと網羅するのは無理かな? 白黒金銀のそれぞれの竜まで出したら、大変なことになります。
ノン
しかも、同一キャラに8等身と3等身の表現があるとか、ルビの振り方が独特というのもあります。
主人公の「耕平」に対して、呼び掛ける人物の心情や立場によって、「おまえ」「あんた」「だんな」など、様々なルビが降られます。
漢字表記がありますから、読者が混乱することはありませんが、 混乱するのは主人公耕平の女性関係です。
木下久美子
主要な女性キャラとはたいてい寝てます。羨ましいと言えば羨ましいですが「軽シン」という物語での仲間内での話です。一歩間違えば修羅場。関係を持った女性同士も知り合いで、それと察していたりしますから。 普通の男の神経なら、2人目に手を出した瞬間に「逃亡」しか選択肢はなさそうですよ。
津野田絵里
耕平が精神病になったり、登場人物の何人かが抗争やらなんやらで死んだりしていますから、決して明るいだけのストーリーではありませんが、全体としては「(悩み事とかも含めて)こんだけ溌剌で奔放な青春、現実には過ごせるもんじゃないよなあ」という感じです。羨ましいのは、その部分ですね。
昭和的、とも言えるかもしれません。○○ハラスメントなんて言葉も当時はなく、今よりもきっと人は、傷つけたり、傷つけられたりして生きていたはずですが、その分、みんなが鷹揚だったように思います。鷹揚さが削がれれば削がれるほど、はみ出す人が増えます。でも、その少しのはみ出しが許されず、みんなが襟を正して生きていくことになります。
襟を正すのは良いことですし、それで少しのはみ出しは是正されるのですが、多少襟を正したところで、その程度ではどうにもならないよ、というくらい大きなはみ出しをしている人は、相変わらずはみ出したままですから、陰湿で残忍で凶悪な犯罪は減らないのでしょう。
そして、少しのはみ出しも許されないことに窮屈さを感じ、心の病に繋がるような気がします。
恩田次郎
印象的なシーンが、いくつかあります。
暴走族チームの初代総長が耕平(1巻・9巻表表紙)で、2代目総長である二郎との対決シーンや、コトある毎に兄貴分的な耕平に頼るメンバーに、「じゃあ俺は誰に!」と、耕平が頭を抱え込むシーン(じゃあ俺は誰に依存すればいいんだ? となり、耕平が精神を病むきっかけとなってたと思います)、それからもうひとつは、年末年始に耕平が、オンナを抱くローテーション(スケジュール)をせっせと作成してメモ帳に書き込むシーンです。
そして、コマの欄外にところ狭しと書き込まれた楽屋落ちネタの数々。
最後に、耕平と薫は結婚するのですが、「やっぱ、一番合うわ」の一言。 さんざん色んな女と関係してきて、それはないでしょう?
作者としては、ストーリーが完結したはずの所で辞めさせてもらえなかったようで、その直後に軽シンはいったんグダグタになります。作者によせられた苦情が堂々と公開されています。しかし、すぐに持ち直すのですから、たいしたものです。それだけ物語を編み出せる設定と登場人物だった、ということなのだと思います。
全9巻。(78-305)