【 カブのイサキ/芦奈野ひとし 】
おそらく文明が1渡滅んだか、天変地異が起こったか、それともパラレルワールド世界なのか。
かといって、バイオレンスがはびこってるわけでも、サバイバルに苦慮してるわけでもなく、みんな現状をのんびり受け入れて、気楽に生活している世界なんですよ。
しかし、時たま垣間見れる超テクノロジーがないわけではなく、人口が極端に減っている様子なので、高度文明を維持管理する人が手薄になっているだけで、滅んではいないのかもしれません。しかし、そのような事情で、庶民が文明の恩恵を享受しずらい状態にはなってます。
陸地が突然、10倍になったと説明されています。そのせいで、日常の足はもっぱら飛行機。主人公のイサキは、愛機、ハイパースーパーカブに搭乗していますが、個人の持ち物ではやく、近所に住む少し年下の女の子、おそらく中学生のカジカ、そのお姉さん、雑貨屋を営むシロさんからの借り物です。
シロさんの雑貨屋はきわめて適当な商売をしてるらしく、取り扱い商品は看板によると「たばこ、塩、灯油、プラモデル、硝子店、洋品店」となっており、朝に弱いため午後からしか営業しません。
実際には、何らかの注文を受けると、愛機スーパーカブをイサキに操縦させて運ばせてるようです。
イサキの本業は水産加工場の工員のようですが、飛行機の操縦経験を積ませるために、シロさんは、あえてイサキにパシリをさせてるように思われます。といつつ、シロさんは昼間から酒びたりです。やっぱり自分がサボるために、「飛行機を操縦させてあげる」をエサに、パシりをさせてるのかなあ?
それでもイサキが荷物を届けると、「なんだ、シロさんじゃないのか」とガッカリされることが多いんですから、人望はあるようですね。
その他の登場人物とともに、いくばくかの人々との触れ合いを通じて、わずかに成長しながら、まったりのんびりしたたかに、イサキもカジカも生きています。
が、わからないのは、土地が10倍になったということ。海が枯れたくらいては10倍にはなりませんし、東京タワーや富士山、太陽の塔も、高さまで10倍になってるようですから、表面積で10倍です。3次元、地球体積で言えば1000倍? 重力はどうなるんでしょ? 人間の生きていける環境じゃなくなりますね。
もっとも、少しずつ環境変化がおこれば、適応できるのかもしれませんが。
さて、イサキはある配達先で、同年代の、女の子パイロット、サヨリと知り合います。サヨリはその時、オシッコが危機的状況で危険運転をせざるを得なくなり、イサキとニアミスを起こして揉め事になりますが、イサキは事情を説明されて、和解します。
サヨリは、特別なことだったと言い訳しますが、度々その後、オシッコ危機のシーンがありますから、そういうキャラにさせられてしまったようです。
それで仲良くなったイサキは、カブより高性能なピッツという機体を操るサヨリに、乗せてくれと頼みますか「死ぬよ」と断られます。カブとピッツではそれほど必要な技量が違うんでしょうね。
さて、イサキ、カジカ、サヨリの3人は、富士山の麓へ荷物配達の依頼を受けます。
何でも富士山は標高三万メートルを超えるらしく、縦にも10倍なんだなあと改めて疑問が沸きますが、回答は用意されていません。
本来は、須走という「登山口のひとつ」までの配達たったのですが、富士山頂までの貨物ケーブルに運良く便乗させてもらえることになりました。
まずは、ピッツよりも高性能のハナグロという機体でさらに上空の飛行場に向かいます。これは、AI搭載の無人機です。
こんな機体かあるのですから、完全に文明が崩壊したとは考えられませんよね。やはり、土地が大きくなって、人口密度が極端に低くなった、とだけ理解しておくのがよさそうです。
そして、富士山の頂上へは、全線地下を走る「ケーブルカー」です。
こついうの、実在するの、ご存知ですか?
いえいえ、富士山ではありません。ドイツの最高峰、ツーツシュピッツ山へのケーブルカーが全線地下路線です。もっとも、ロープウェイも選択肢としてはありますけどね。
さて、富士山の頂上についたものの、なにしろ標高4万メートル。外出などできません。施設内から外の風景をみるだけです。
そして、いよいよ最終巻。
手に入れるのに苦労しました。
最終巻は発行部数が少ない。連載してない作品は売れないから、書店も早々にひきあげる。この二つの要素によるものです。また、書店のコミック棚は縮小の一途を辿ってもいます。
ようやく、マアゾンで見つけたのは、中古の6冊セット。1~5巻は持ってるんだけどなあ。
でも、新品1作より6冊セットの方が安いんですよ。
そして、予想通りでしたが、「ポパイ」と「持ち出し禁止」のゴム印。漫画喫茶からの流れもののようですね。しかも、自分で所持してる1~5巻より美麗品。もしや、だれも読んでないのかも?
で、物語の登場人物はどうなったかというと、カジカはシロさんから、カブを譲り受け、イサキは郵便配達のカブを払い下げてもらい、それぞれの足を持つことになり、新しい一歩を踏み出すのです。
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