漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 ブラックジャック創作秘話/宮崎克・吉本浩二 】

f:id:mineshizuku:20190321231321j:plain

 これは凄い漫画ですね。ご本人亡きあとで、様々な方への取材だけで構成されています。
 様々な方への取材だけでここまで描けるということは、それだけ手塚先生が強烈な人物で、多くの人に影響を与えた、ということの、証左でもあるわけです。

f:id:mineshizuku:20190321231404j:plain

 想像でしかないのですが、もともと単発モノの企画だったのでは? と、思います。で、やってみたら、評判がいいので、今度はこのエピソード、それから、あのエピソード、という風に、どんとん書き足されていったのではないでしょうか。

f:id:mineshizuku:20190321231456j:plain

 というのも、初期の頃は時系列に関係なく、その回その回におけるテーマにそって、描かれてますからね。
 それと、1巻には巻数表示がありません。増刷分にはあるんでしょうけど、「評判がいいから、またやりましょう」となった時点では、1巻分でおしまいにするつもりではなかったかなと、思います。

f:id:mineshizuku:20190321231534j:plain

 手塚先生の創作への執念もさることながら、笑えるものもたくさんあります。
 ベレー帽をなくしたから描けない、「○○の赤いきつね」でないとダメだ、「差し歯をなくしたから描けない」「秋田のユニではネームが書けない」などなど、わがままをテーマにした回では、笑いを通り越して、呆れるばかり。これを「待たせてばかりいる編集者への気遣い、だった」と解釈する人までいたりして。

f:id:mineshizuku:20190321231702j:plain

 2巻からは、少年チャンピオンの表紙コレクションが始まります。ここには、VOI.1とありますから、この時点では、何冊かは出そう、という連載企画になってたんでしょう。

f:id:mineshizuku:20190321231732j:plain

 作品が長くなるにつれ、タイトルのブラックジャックだけではなく、手塚治虫先生の色々な創作秘話や裏話が登場します。当然、周囲の人間も登場します。大袈裟に表現されてる部分はあるにしろ、破天荒でトンデモな編集者も出てきます。無理を通せば道理が引っ込む昭和のむちゃくちゃなバイタリティーをそこかしこに感じます。

f:id:mineshizuku:20190321231811j:plain

「医療漫画は僕の担当で新連載をするはずだったじゃないですか!」、とブラックジャックの連載に対して猛然とあの壁村編集長に噛みついた編集者がいたのには驚きでしたし、「原稿が待てないなら輪転機に砂をぶちこんで壊してやる」なんて印刷所に乗り込む人のエピソードにもびっくり。今なら警察呼ばれて、威力業務妨害で逮捕ですよね。

f:id:mineshizuku:20190321231851j:plain

 無理を通せば道理が引っ込む時代ではありました。良い時代だったんじゃないでしょうか。無理を通す人は今もいますが、それは権力や立場を勘違いして使ってるだけの腐れ外道というイメージが強く、昭和のそれは個人の熱意によるものだと感じて仕方がないのです。
 そーいえば、カル○○・○○ンが逮捕されましたね。
 カリスマ性とかでは叶いませんけど、下請け叩き、従業員叩きで、会社を建て直すなら、誰だってできますよ。無理も道理もなにもなく、私財を蓄えてただけだったんだなあ、なんて、思ったりしながら、ニュースを見てました。

f:id:mineshizuku:20190321232008j:plain

 WIN&WINの関係どころか、WIN&LOSEの関係しか作れない人だと思ってましたが、逮捕されたらもうLOSE&LOSEでしかありません。まあ、あんなカスの話はおいといて。
  無茶苦茶で豪快な方だったようですが、週刊少年チャンピオンの名物編集長、壁村さんは、間違いなくWIN&WINの関係に、最終的にはもっていってた人なんでしょうね。それも、無意識に、自然体で。

f:id:mineshizuku:20190321232121j:plain

 ブラックジャックが始まった頃の手塚先生は、会社は倒産を目前にしており、漫画もヒットに恵まれず、「終わった作家」だと見なされていたとか、壁村さんが、4~5回の場を最後に用意して「死に水をとる」つもりだったのはわりと有名な話です。

f:id:mineshizuku:20190321232201j:plain

 ところが「ブラックジャック」はじわじわと人気がでて、やがて大人気作品となり、手塚は甦り、漫画にアニメに大忙しとなってゆきます。
 大勢のスタッフが集結しつつも、殺人的スケジュールで進行させねばならなかったことや、それでも作品の完成度に妥協しなかったことなどが、熱く表現されてます。

 ここに紹介するために写真をとるまで気がつかなかったのですが、2012「このマン」男編の1位だったんですねえ。

f:id:mineshizuku:20190321232317j:plain

 まあ、ものすごーく取材に力をいれておられるのは、わかります。
 手塚先生が、わたべ淳高見まこ石坂啓寺沢武一などの各先生に、「さっさと(アシスタントなんか)辞めて漫画家になれ」と言ったエピソードが紹介されていて、その中に石坂啓先生が「かつての仲間がノーギャラで手伝ってくれた」というシーンがあるんです。そこに出てくる石坂ギャラ、確かに超古い彼女の作品のキャラなんですよ。ご本人が描かれたのか、模写なのかはわかりませんが。(確か、「とろりんなんぼく」って作品のキャラじゃないかな?)

 でも、取材不足も感じないわけではありません。
 ディズニーの「ライオンキング」を、盗作として訴えるかどうかを検討していたことなどは、掲載されてません。
 ジャングル大帝アメリカでのテレヒ放映を前提に脚本が書かれていて、そういったことを知るには、辻真先先生を取材しないとわからないのではないでしょうか?

 辻先生によると、「ディズニーはジャングル大帝を知らないと主張しているが、そんなことはありえないし、それが本当ならあまりにも不勉強すぎる」と、主張されています。

f:id:mineshizuku:20190321232501j:plain

 それはともかく、この漫画はやろうと思えば、もっともっと続けられたんではないかな、と思います。
 ここらが潮時と作者さんは判断されたのでしょうけど、たぶん他にもいっぱいエピソードをご存知で、その上で「ここまで」ということにされたんでしょうね。

 この漫画に描かれていることも、そうでないことも、今後まだまだいろんなメディアで、手塚先生のお話は出てきそうな気がします。

(115-435)