【 7SEEDS ⑤/田村由美 】
この辺りから、文明の崩壊した近未来サバイバルSFから様相が変わってきます。
おそらく作者からしたら、テーマを変更したつもりはなく、いよいよ本格的にテーマの核心へ迫ってきたということなのでしょう。
そのテーマとは、「人と人との関わり」だと僕は思っています。極限状態を作ることで、ウワベだけの人間関係ではやっていけなくなります。かといって、個人的な心の声をダダ漏れにしていたのでは、他人に対して何の配慮もできないワガママ野郎になってしまいます。本音のヤリトリをしなければ、理解しあうことはできないけれど、本音をそのままぶつけ合えばいさかいになり、傷付けあうことにもなります。そこをもっと「よく考えなさい」と、文明にどっぷり浸ってる我々に警鐘を鳴らしているように思います。
他人を押し退けて踏みつけてやりたいようにやれば勝者。だけど、うわべだけで争いを避けることもできるし、逃げることもできる。そのいずれもが、「違うんだよ」というメッセージを感じます。
佐渡に上陸した花、ちさ、富士子、角又、ひばり、新巻、あゆは、その様相に驚きます。地下施設の崩壊により地表が陥没し、地面が2重になっていたのです。
地表はいわゆる草原地帯。しかし、もう一段下の地表には、小川が流れ、木々も生い茂り、これまでどこでも見る子とのなかった鳥も飛んでいます。
角又とあゆとひばりが地表に残り、後のメンバーが2層目の地表に降ります。
鍵島から地下に入ったメンバーはバラバラになっています。まず、欄、牡丹、ちまき。牡丹はこれまで気を張ってみんなを率いていた欄を労い、傷の手当てをし、休息をとらせます。蝉丸とナツは水流に流され、地下のどこかに上陸したものの現在地は不明、灯りの燃料も切れ、完全な暗闇に閉ざされます。この中で抱き合って告白をしあいます。
ひばりは佐渡の旧家の出身です。先祖から守るように言われていたご神体(大きな岩)があるのですが、その下に大穴が開いていました。穴を降り、先へ進むと、祖母が残したハイテク指令室がありました。ここから地下の各所に様々な指令が送れるようです。ただ、時の経過により、どうやら全ての機能が作動するわけではなさそうです。
苅田と溯也もそれぞれ単独行動、胡瑠璃とハルも灯りが無く暗闇の中、茜と秋ヲと潘と桃太は同一行動をとっています。流星と一緒にいるものの妊娠しているくるみは、その場からの移動が困難な状態です。
嵐と安吾は花をめぐって喧嘩になり、別行動を選び、要は「失敗したのでは?」という意識に苛まれながら洞窟内をさまよいます。
鍵島にあった研究所の記録映像が時々再生されては消え、何人かが断片的に施設の概要を知り始めます。研究員は施設の日々の管理をするだけなので基本的には暇で、お掃除ロボット(ルンバみたいなやつ)に、カメラや通信機能を付加する改造などを施して遊んでいました。それなりのAI機能も搭載されたようで、これが後に地下でバラバラになったメンバーをつなぐ通信網として活躍することになります。
この時点で、「文明崩壊後」としての世界ではなく、文明が継続していると理解してこの作品を読むのが正解だと思わされます。経年劣化により完全な動作をできなくなった機器類に花たちは翻弄されるという展開になっていくのです。
地下のメンバーは、幻覚物質や、巨大な蟻と蜘蛛といった外敵を避け、また戦いながら、一部復旧した電源による照明やパソコンに残された情報などを駆使し、崩壊しつつある地下施設からの脱出を図ろうとします。
ところが、そんな彼らに課題がつきつけられます。
ひとつは、要(百舌)の処遇です。夏Aの安吾が未来世界で他のメンバーの脅威になっているのでは? そう思い込む要は、それなら安吾を抹殺しなければと行動をしています。これをなんとかしないといけません。
もうひとつは、身動きがとれなくなっている流星とくるみの救出です。
そして、新たに彼らにもたらされた情報への対処です。それは、佐渡にはノアの方舟と称される施設に、
7SEEDSプロジェクトとはまた別に100人を越える子供達が冷凍睡眠させられており、これを救出して解放することです。
何しろ、管理する人がいなくなって、崩壊の危機に面している施設です。脱出するだけでも多くのハードルが存在します。その上、さらに救出すべき子供達がいるとなると、簡単にはいきません。地上へ近づこうとしていた一行は、また地下深くへいかねばならないのです。
この施設の研究員として業務に従事していた一人の女性が、角又の恋人であることも判明します。
彼女は長期出張と称して角又の元を去ったのですが、その後、角又が7SEEDSプロジェクトのメンバーに選ばれ、やがてこの地にやって来ることを予想していました。そのため、角又へのいくつかのメッセージや置き土産をしていたのです。
安全のために施された各種装置というのは実はやっかいなもので、すべてが順調であれば「安全のための装置」として機能するのかもしれませんが、施設のあちらこちらにガタが来ていたのでは、却って行動を制限してしまいます。
これは現代の実社会でも時々僕は感じています。例えは、火災時の延焼を防ぐための防火扉です。密閉のための扉止なのでしょうけど、健常者が台車を押して荷物を運ぶのにも大きな障害になっています。鉄道のホームドアにも危険を感じます。ホームドアと列車の間に取り残されて電車が動き出したら? 視覚障がい者ホームに転落しないように、というのなら、連結部分から線路に落ちないようにカバーをつければいいし、実際、そういう改造が、行われています。短い編成の列車が来るときだけ、その部分の溯などを閉じればいいのでは?
そんなことを考えてしまいます。
ノアの方舟を放出するために現場に向かった花、ナツ、蝉丸は、まず暗証番号の照合ができなくて、行動か停止します。
その後、崩壊の危機に貧した施設があちこちから流れ込む水を防御するために隔壁がどんどん自動的に閉じられていきます。そのため、花たちの区画は逆に水が抜けずに貯まるる一方となり、水没していきます。
助けに向かった安吾、嵐、荒巻も、進路を阻まれて命がけの行動を余儀なくされます。
メンバーは様々な場所から様々な方法で脱出をするのですが、それぞれ簡単にはいきません。
方舟の場合で言うと、ハッチがきちんと閉まらないとか、それが解決したら今度は、その区画に注水されて方舟は自然と上昇し、同時に上部出口が開くはずなのですか、それが開かないとか。その出口を開くために嵐が危険な行動をすることになるのですが、それを果たした後は、水中蜘蛛の糸に絡めとられて方舟が上昇できない、とか。
しかし、この物語では既に何度も、危機一髪とか絶体絶命の状況を乗り越えてきています。なので、最後だけすんなりいっても拍子抜けではありますが、「なんとかなるんでしょ?」という思いも抱きながら読んでいた、というのも事実です。
この物語の見所は、このクライマックスに関しては特に「脱出劇」でもなく、「サバイバル」でもなく、人と人との関わりあいであり、成長物語の部分なのです。
くるみは無事に出産を終え、そこへかけつけた他のメンバーとともに外へ出ます。
鍵島の地下から脱出した者達は、クルーザーで佐渡島へ。
佐渡の地下からも、ケーブルカーやハンググライダーなどで地上へ辿り着きます。
こうしてようやく佐渡で生存するメンバーが一堂に介することができました。手紙の入った瓶がアメリカから漂着しており、他国にも生き残りがいることがわかります。方舟に冷凍保存された子供達はそのままです。いつか解凍する技術ができればその時には、という終わり方です。
この場にいないのは要(百舌)だけです。みんなを守るために、蟻を引き寄せる役をこなし、犠牲になったようです。
半分が沈んで地形の変わった佐渡島です。全体の様子を把握するのはこれからです。一年の気候変動も、動植物がどんな具合かもまだまだ調査せねばなりません。ですから、定住のための村作りを早急に進めるとはなりせんが、とりあえずこの島に落ち着こうということになります。
全35巻。これで完結です。完結ですが、外伝があります。外伝とは言うものの、事実上の続編です。
脱出劇とか、そういうのではなく、佐渡できちんと生活基盤を作って行こうということで、物語が進行します。これで読者もまあひと安心できるな、という感じです。
④はこちら ↓
http://zukuzuku.hatenablog.com/entry/2019/03/28/003114
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