漫画パラダイス

読んだ漫画のレビューなど。基本的には所持作品リストです。

【 快感温度n℃/むつきつとむ 】

 この作品あたりからでしょうか。むつき先生の作品がエロオンリーから、エロコメ路線に変わってきて、ストーリーに骨格が加わり始めます。

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 バンドメンバーと揉めたギタリスト玲児が、迷子になっている温子をナンパから救ったのは偶然ですが、温子が探していたのはまさしくその玲児。実家の旅館を経営する父親が死亡し、温子は玲児を連れ戻すために送り込まれた従業員だったのです。

 そうとは知らない玲児、状況に流されて、温子の処女を奪ってしまいます。

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​ そして、旦那様の遺言ということで連れ帰られてしまい、従業員たちからは「若旦那」と呼ばれ、なしくずし的に旅館の主人にさせられてしまいました。

 この玲児がまたモテる男で、顔馴染みの他の従業員とも、幼馴染みで仕入れ先の娘であり元恋人でもある除雪とも、東京から追いかけてきたバンドメンバーで元恋人とも、みんなやっちゃいます。

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 玲児が所属しているバンドは、玲児以外はプロ志向で、実際デビューの話をもちかけてくれるプロダクションもあるのですが、玲児にその気はありません。旅館を継ぐのがイヤで、東京へ逃げていき、言い訳のためにバンド活動をしているフシがあります。

 しかし一方で、旅館の仕事には誰よりも真面目に取り組んでいて、本人の理屈では「真面目に取り組むふりをして周囲を信用させ、監視体制が緩んだところで逃げる」ということのようです。が、色んな女性と関係をもちながらも、玲児と温子は少しずつ距離を縮めていきます。

 元カノと温子の間で玲児の争奪戦も行われますが、結局玲児は東京には戻りませんでした。

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 さて、玲児や温子のいるこの古くてボロい篠山旅館ですが、駅前の大きなホテルに乗っ取られそうになります。

 赤字経営が続き、起死回生策もなく、女にだらしない跡取りが呼び戻されて若旦那をしてるだけの旅館のですから、ビジネス的にどうこう、というタイプの漫画ではありません。どちらかというと、みんなの心地よい居場所的な、感傷的な感覚で、「経営を他人に譲るのはいかがなものか?」と、読者の気持ちを誘導していく作劇になっているんですね。もちろんそこには、過去の経緯や色んな人たちの想い出があるからなのですが。

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 でも、地域全体の活性化のために、スキー場へのアクセスに絶好の位置にある篠山旅館には、収容人数を増やしてほしいという要請が来ます。

 玲児が毎回誰か(たいていは温子)とセックスしてるようなマンガとは思えない展開です。

 そして、玲児は気付きます。何も代わりばえしない田舎がイヤで東京に出たのだけれども、実は何も変えたくなかったのは、自分自身だったんだ、と。

 このへんの心理は私の文章力では残念ながら伝え切れないのですが。

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​ 最後、少しページ数が不足したのか、それともあえてサラッと流したのか、いくつかの展開がギシッと詰め込まれます。

 ひとつは、プロデビューした元バンドメンバーで元カノに、きちんと別れを告げること。
 もうひとつは、変化に本気で取り組むこと。そのために1年間の修行にまで出ます。(この間、旅館は姉に任せます)。

 そして、温子とは・・・。と、まあ、このようなお話です。

 むつき先生の作品を網羅しているわけではありませんが、この作品くらいがおそらく転換点で、エロありドタバタ路線を維持しつつも、エロ以外の部分でストーリーが進んでいく作品への移行が始まってたように思います。


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